リオは、上山選手にとって初めての「4年に一度の舞台」だった。それでも予選は落ち着いて、いつも通りにできたという。その結果、予選を4位で通過し、自らもメダルへの可能性を感じていた。
ところが、決勝トーナメントの舞台は、それまでの予選とはまるで違う光景が広がっていた。
「決勝トーナメントに入った途端に、スタンドが観客で埋まっていたんです。選手がいい点数を取るたびに、観客席からは拍手が起こる。そんなこと、世界選手権でさえもなかったので、少し怖さを感じるくらいでした」
実は前日、上山選手は団体戦の決勝トーナメントが行われているのを見ていた。そこで、決勝トーナメントの雰囲気をつかみ、翌日の自らの試合では落ち着いていこう、と考えていた。だが、「想定内」だったにもかかわらず、自らを襲う緊張感をどうすることもできなかったのだ。
「あの時は、日本選手団で誰も金メダルを取ることができていなくて、予選4位だった僕に『もしかしたら』という期待が寄せられているのをひしひしと感じていました。無意識にそれがプレッシャーとなっていたのかもしれません」
ただ、心とは裏腹に、体の方は予選から調子が良かった。そのため、1回戦を6-0でストレート勝ちすると、自然と気持ちも落ち着き、2回戦は6-4で競り勝ち、準々決勝へと進出した。あと1回勝てば、メダル争いに加わることができるところまできていた。しかし、結果は2-6で敗れ、準決勝へと進むことはできなかった。
ゲーム終了後、上山選手にあったのは悔しさだけだった。
「帰国後、友人から『メダルには届かなかったけれど、目標は達成したんやから、良かったやん』というメッセージをもらったんです。それを見て、『あ、そうか。オレの目標はベスト8だったんだ』と思い出しました。それと同時に『それじゃ、メダルなんて取れなくて当然だな。もっと前からメダルを目標にしておくべきだった』と。きっと、現実的な目標を立てた時点で、メダル争いから外れていたのだと思います」
勝負は、試合当日からではなく、その前から既にスタートしている。いかに本番に向けての「心構え」と「準備」が重要であるかということを、上山選手は初めてのパラリンピックで痛感していた。