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ATHLETES' CORE

車いすテニス


「今年になって思うようなプレーができるようになり、テニスが楽しくなってきた」
そう語る彼の表情は、緊張感こそ同じだったが、以前とはまったく違っていた。
現在、中学3年生となった坂口竜太郎選手。全日本ジュニアのチャンピオンとなった1年生の時、彼はこう語っていた。
「自分よりも強い選手はいるし、僕にはまだ強みもない……」
「日本ジュニアランキング1位」という称号とは裏腹に、どこか自信を失いかけているように思えた。
あれから1年半、坂口選手には今、「楽しむ」強さがある。
気持ちに変化をもたらした“気づき”
昨年、初めてシニアの世界に足を踏み入れた坂口選手。だが、思うようなテニスができず、成績も振るわなかった。その時の自分自身について、坂口選手はこう振り返る。

「ちょっとミスをしただけで、どんどん自分から崩れていくことが多かったんです。負けた後は、もう悔しさしか残らなかった。この負けを生かして、次、頑張ろうという気持ちになれなかった」

そんな彼が自分自身に変化を感じたのは、シーズン終盤のことだった。

「それまでとは違って練習の時から、伸び伸びとやれている自分がいた」と言う坂口選手。「何がきっかけかは自分でもよくわからない」としながらも、気持ちの変化についてこう語ってくれた。

「もちろん勝ちたいし、勝ったら嬉しいけれど、でも僕はまだシニアの大会に出場するようになったばかりで、勝つこともあれば、負けることもある。だから結果を追うんじゃなくて、自分がやりたいテニスをしたいなって。それを意識するようになってから、どんどんテニスが楽しく思えるようになって、逆に成績も出るようになったんです」

その時は、ふとした瞬間の気づきだと思っていた。しかし、実はそれは、あるプレーヤーからもらった言葉にあった。

世界トッププレーヤーからの “助言”
その言葉を思い出したのは、今シーズンのはじめのことだった。シーズン最初の大会となった4月の「ダンロップ神戸オープン」。同大会は、トッププレーヤーたちが競う「国際車いすテニストーナメント」のほかに、国内選手のみで競う「国内車いすテニストーナメント」と、ジュニアクラスの「国内ジュニア車いすテニストーナメント」の3部に分かれており、坂口選手は「国内車いすテニストーナメント」にエントリーした。同トーナメントの男子シングルスには日本ランキング30台から150台の24人が出場。その中で坂口選手は見事優勝を果たした。

当時、坂口選手は日本ランキング68位で第6シード。優勝候補の筆頭ではなかったことは想像に難くない。ところが、準々決勝で第1シードを破ると、準決勝では1ゲームも奪われない圧倒的な強さで快勝し、決勝も制した。さらに一つ年下の川合雄大選手との“中学生ペア”で臨んだダブルスでも優勝し、二冠を達成した。

実は、この時の優勝にはある“出来事”が影響していたという。大会の1週間前、テレビの収録で坂口選手はある選手と対戦した。それは北京、ロンドンとパラリンピックを連覇した世界のトッププレーヤー国枝慎吾選手。坂口選手が車いすテニスを始めたきっかけとなった憧れの選手だ。

その国枝選手と3ゲームをしたところ、1-2で敗れた。坂口選手が取った1ゲームも国枝選手が連続でダブルフォルトのミスをしたことによるものだったという。だが、その3ゲームでたった1度だけ渾身の一打があった。国枝選手のサービスをリターンエースで返したのだ。

その一打にもつながったのが、試合前に行われた国枝選手との練習でのことだった。
「国枝選手にこうアドバイスをもらったんです。『勝ちにこだわりすぎずに、一球一球を大切にすること。そうしたら、たとえ負けても清々しい気持ちで次に進めるよ』と。その時に、『そうだ、前にも言ってもらったことがあったな』と思い出したんです」

それは2016年12月、静岡で行われたジュニアの強化合宿で国枝選手に会った際に言われたことだった。それが坂口選手の心のどこかにあったのだろう。“気づき”として思い出され、そして再び国枝選手本人から言ってもらったことによって、はっきりと坂口選手の心に刻み込まれたのだ。


明確となった“自分のテニス”
1年半前、「自分の強みがわからない」と語っていた坂口選手だが、今は「自分の強み」と思えるものをつかみつつある。

「僕は昔から、ベースラインの前で打つ方が得意なんです。ベースラインの外ではそれだけボールを打つ範囲が広くなってしまう。だったら、来た球をベースラインの前でパンッと打つ方がいい。相手に決められる前に、こっちから攻めに出て決めてしまおうと。コーチからもその方がいいとは言われていたのですが、自分ではよくわからなかったんです。

でも、今はベースラインより下がって長いラリー戦に持ち込むよりも、前に出てパンッと打ち返して速い展開の方が得意……というか、自分は好きだなって。攻めて決まった時は、すごく気持ちいい。たとえ負けても、清々しい。それが実感できるようになったことで、自分のプレースタイルが明確になりました」

実は坂口選手がテニスを本当に楽しいと感じ始めたのは、中学生になってからのことだという。小学生の時は「あまり好きではなかった」と語る。
「テニス自体は楽しかったけれど、でもやっぱり友だちともっと遊びたいという気持ちもあって、テニスの練習に行くのが嫌で仕方ない時期もありました」

だが、今は違う。学校や塾が終わると、毎日テニスコートに通うことがまったく苦ではないという。目標をもって、何かに夢中になっている。そんな今が、結構心地よく感じている。

冬には高校受験が待ち受けている今シーズンは大会出場は控え、今後は勉強に力を入れていくという坂口選手。晴れて高校生となった来シーズンには「もっと多くの大会に出て、いろんなタイプの選手や強い選手と対戦してみたい」と胸を膨らましている。

将来の目標は、「パラリンピックで金メダルを取ること」に変わりはない。ただ、今は国枝選手に教わった「一球一球を大切にすること」そして「テニスを楽しむこと」が一番にある。それをモットーに強くなっていきたいと思っている。

「楽しいから、好きだから、続けられるし、努力もする。苦しい練習にも耐えられるし、厳しい試合にも勝てるんじゃないかなって思うんです」

今、坂口選手はテニスが楽しくて仕方ない。それが彼の強さの一つとなっている。


坂口 竜太郎(さかぐち りょうたろう)
 
車いすテニス/浦安ジュニア車いすテニスクラブ
2003年12月28日、福岡県生まれ。
2歳の時に交通事故に遭い、胸椎を損傷。
胸より下が麻痺する障がいを負う。
5歳の時に見た国枝慎吾選手のプレーに憧れる。
小学3年生から本格的に車いすテニスを始め、
中学1年の時に日本ジュニアランキング1位となる。
中学2年からシニアの大会に出場し、今年4月の「ダンロップ神戸オープン」では
国内車いすテニストーナメントにエントリーし、シングルス、ダブルスで二冠達成。
2018年8月29日現在、国内ランキングはシングルス59位、ダブルス91位。
 
取材・撮影:越智 貴雄  取材・文:斎藤 寿子