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車いすレース

渡辺 勝

勝負の理由

渡辺勝選手の今年の目標は明確だ。
7月に開催された世界選手権でメダルを取ること、
また6大メジャーマラソンのいずれかで日本人トップに立つことである。

目標の理由は昨年のリオパラリンピックにある。
渡辺選手は日本パラ陸連が定めた派遣設定条件を満たせず、日本代表選考から漏れた。
苦い記憶はパラリンピックに出られなかったことばかりではない。
自身が目標としてきた日本代表の先輩たちがリオで敗れる姿を目の当たりにし、世界との差を再認識した。

だから強く思う。
「東京パラリンピックに出たい。ただ出るのではなく、勝てる選手として出場したい」

日本代表に選ばれ、且つ世界に勝つには、タイムと勝負の駆け引きと、両方を制することが求められる。
東京を見据え、現在はいかに記録を縮めるかに日々取り組んでいる。

駆け引きの魅力を知る者にとって、
タイムの追求に楽しみは見出しにくい。
だがそれもまた「勝てる選手」になるためのステップだ。
周囲のペースに呑まれてしまえば記録は伸びない。
タイムを出すにはひとりで走り切る力が求められる。
レーサーやグローブ、座るポジションを改善し、効率的に漕ぐ技術を磨いているのはそのためだ。

世界のトップアスリートたちに、渡辺選手は思う。
勝利を手にしたとき、彼らは相手に対する敬意を忘れない。勝者の裏には必ず敗者の存在があることを知っているからだ。
そして、そんなトップアスリートたちとの勝負を制してこそ喜びは増す。

2月の東京マラソンで渡辺選手は初優勝、
夏の世界選手権ではメダルには届かなかったものの5位入賞を果たし日本人トップに立った。
今年の目標をひとつ、またひとつと達成し、あらためて引き締める。
「ひとりでタイムを出す力と勝負に勝つ力、両方を備えれば間違いなく強い。いまは我慢の時期。勝つ喜びを得るために、2020年まで1年ずつ課題をしっかりクリアしたい」

勝負の理由

野球好きの父の影響だろう、幼い頃からスポーツが大好きだった。
父が仕事から帰ると家の近所の大きな公園で毎日のようにキャッチボールや駆けっこを楽しんだ。

中高時代は野球部に入り、厳しい指導のもとで礼儀を学んだ。
毎日ノートに目標を記し、日々の積み重ねの大切さを知ったのもこの頃のことだ。
かつて身に付けた競技に取り組む姿勢は、東京パラリンピックを目指すいまにも通じている。
「毎日きつい」と笑いながらその笑みに曇りがないのは、求める勝負が日々の先にあるからに他ならない。

勝負を思うとき、ふと幼い頃の記憶がよみがえる。
「お父さん、『勝』の由来ってなぁん?」
小1の頃か、小2だったか。自分の名前の意味を調べるという宿題が出て、父に訊ねたことがあった。思えば無邪気に訊ねたものだが、しかし父は幼い息子を食卓にきちんと座らせ、真剣な表情で向き合った。
そして、おまえの名は「勝負」から取ったのだと、熱を込めて話し始めた。

勝つ選手になってほしくてこの名前にしたんだよ。
でも、勝者の裏には必ず敗者がいるだろう? おまえには負けを知らない勝者にはなってほしくない。
自分が勝ったときに負けた選手の気持ちも考えられる、そんな人間になってほしい。

「つまり『勝利』から取った名前ではないんですよね。『勝負』の勝、なんです」
おかげで勝負が好きでたまらないのだと、楽しげに言う。
これまでに出合ったスポーツ然り、下り坂のスピード感に心を掴まれた車いすマラソンも、シビアな駆け引きに魅力を覚えるトラックも、勝負を制すればこそ自身の心は満たされる。

「スポーツの根本は楽しむこと。でも、その先には勝つ喜びがある。僕はパラリンピックで勝ちたい。勝ちたいからこそ、きつくても頑張れる」