障がい者スポーツを応援する:SPORTRAIT

THE SUPPORTERS

齋藤 拓さん

有限会社アイムス 義肢装具士 

義肢(義手・義足)、装具(サポーター・コルセットなど)を製作する有限会社アイムスの齋藤さんは、パラサイクリング、陸上、トライアスロンのトップアスリートの義足づくりを担当する。齋藤さんに、この道に進んだきっかけや、仕事への思いを伺った。
選手と一緒に世界を目指す
Q.義肢装具士の道に進んだきっかけを教えてください。
高校生の時、偶然テレビで陸上の世界大会を見て、そこで、初めて板バネ型の競技用義足とそれをつくる義肢装具士の存在を知ったことがきっかけでした。その頃は、中学・高校と全国大会を目指して、一生懸命やっていたソフトテニス部を引退し、将来について考え始める時期でした。子どもの頃からプラモデルや木工作が好きで、スポーツも好き、何かをやるのならできるだけ上を目指したいと思う私にとって、モノづくりに携わり、選手と一緒に世界を目指す義肢装具士という仕事は、魅力的でした。
しかし、高校卒業後、義肢装具士の専門学校に入学すると、競技用義足の製作に携わることは狭き門だという現実を知りました。そもそも装具をつけてスポーツができる人はごく一部で、その中でも世界大会に出る日本人選手は数人、よって競技用の義足を作る会社も義肢装具士も極めて少なかったのです。先生にも「競技用の義足に関わるのは難しい」と言われましたが、厳しさを感じつつも競技用義足を扱う企業や団体を調べて実習に行く等、思いつくことをやっていきました。そして、縁あって入社が決まったのが、競技用義足を使う選手を一番多く抱える鉄道弘済会でした。鉄道弘済会は、義肢装具の製作からその後のリハビリまで一貫して行う民間では唯一の企業で、多くの人が義足を求めて訪れるため、競技用に関わらず色々な義足製作に携わりました。


毎日、当たり前に全力で練習ができる
Q.競技用義足について教えてください。
競技用義足は、跳んだり走ったりするために開発された義足ですが、その構成は日常生活用の義足と大きく変わらず、ユーザーの足に触れる部分である「ソケット」と板バネなどを含む「パーツ」と呼ばれる部分から成り立っています。競技用義足は、ソケットに選手の種目や脚力に合わせて選択したパーツを組み合わせて完成します。どうしても板バネに目が行くことが多いかもしれませんが、義足作りで大切なのは「ソケット」です。この出来具合がその義足の出来の8~9割を決めます。
ソケットは、足の採寸・型取りを行って、石膏で足のモデルを作り、そのモデルに繊維を巻いて、その上から樹脂で固めてできます。中でも、石膏のモデル作りが繊細な加工と義肢装具士としての技術力が必要とされるところです。実寸のモデルのままソケットを作ってうまくいくことはほとんどなく、骨の位置や、直接足を触ったときの感覚に加え、本人の体質や生活習慣、好みなども考慮して実際にソケットを付けた時との差を埋める調整をしていきます。ソケットが合っていなければ、痛みで歩くことさえできず、日常生活にも影響がでますし、練習もままなりません。選手にとって、大切なのは毎日当たり前に全力で練習ができることで、良い義足だから結果が出るわけではなく、良い練習を積み重ねることが結果に繋がるのです。選手にとって、毎日そういう練習ができるのが理想で、それを僕は追い求めています。


アイムスや僕のことを知らない選手も相談に
Q.競技用義足の義肢装具士として、意識されていることを教えてください。
選手が義足に望むことを機能面、デザイン面など様々な側面で具現化したいと考えています。パラサイクリングの藤田選手の競技用義足を初めて作ることになった時、「もう少し漕ぎやすく」と言われたのですが、彼が感じる「漕ぎやすい」とは具体的にどういうことなのか、対話を重ねて明確にしていきました。軽い方がいいだろうと考えていても、彼からするとペダルの踏みごたえが無く、力が伝わっていないと感じるなど、話してみて初めて分かることがたくさんあります。また、ある時は、ソケットから下のパーツが完成したので写真を送ったら、「もっとエッジの効いた、攻めたデザインで」と再度リクエストが、「マジか」と思いつつも、藤田選手の好きそうな形などを思い出してデザインして作っては、写真を送りました。好きなもの、気に入ったものを身につけて気持ち良く競技が出来れば、選手はもっと能力が出せると思い、私もこだわります。
また、義足の製作や大きな調整は遅くとも大会の一カ月前に終わらせるようにしています。選手と共に練習を積んだ義足でなければ、意味がないのです。なぜなら、練習以上のものは大会では出ないからです。大会直前に、選手に違和感があると言われ作り直した経験もありますが、当日、選手から「痛くて走れない」と連絡があり大会を棄権することになってしまいました。硬いソケットが柔らかい身体になじむには時間がかかるのですが、その時間が足りなかったのです。そのため今でも、大会間近に作り直しの相談を受けると、選手の要望を受け入れ作り直すべきか、元の義足を微調整するか慎重に判断するようにしています。技術者としての意見、選手としての意見、それを言い合って出した答えがいい結果に繋がると、選手との間に信頼関係が生まれます。期待に応えられるかと怖くなることもありますが、信じてくれている選手たちの為に丁寧かつ一生懸命に製作へ取り組んでいます。


一緒にがんばってきた選手が活躍できる義足を
Q.今後の目標について教えてください。
一緒にがんばってきた選手が世界で活躍できる義足を作り、選手の結果に繋げることが一番大きな目標です。そして、より多くの選手にハードな練習が日々積める義足を提供し、日本の競技力向上に貢献したいと思っています。
以前所属していた鉄道弘済会では、義肢装具の製作からその後のリハビリでの調整まで一貫して携わり、競技用だけではなく色々な種類の義足をたくさん作ってきました。目の前にいる義足を必要とする人と最後まで向き合えたことで、もっといい義足をと、義足づくりへの情熱と責任感が強くなっていきました。その一方で、その想いとは逆に自分の判断だけでは進められないことやどうしても時間が必要なことが増え、細かい要望に応えることが難しくなっていきました。そのことが、今日明日でなんとか義足を調整してほしいという、選手の切迫した要望にすぐに応えることができ、自分一人で即断・行動できる環境をと、今のアイムスに移るきっかけになりました。今まで学び得てきた自分の力が本当に通用するのか、挑戦もしたかったんです。
今はまだ、アイムスや僕を知らない選手が多いかもしれませんが、サポートしている選手が結果を出せるように一生懸命がんばって、その評判を聞いた選手たちが義足の相談に来てくれたらうれしいですね。

齊藤 拓 (さいとう たく)

1983年宮城県栗原市生まれ。
2005年熊本総合医療福祉学院卒業・義肢装具士免許取得、鉄道弘済会義肢装具サポートセンター入会。
2015年有限会社アイムスに入社。
2005年よりスポーツ義肢に携わり、リオ・北京・ロンドンパラリンピックメダリスト藤田征樹選手の義足を製作。
2010年日本初のアンプティーサッカーチームFCガサルスを設立し、競技を広める。
2013年日本パラサイクリング連盟義肢メカニックに就任、世界選手権など様々な大会に帯同。
2014年はアジアパラリンピックにチームマネージャーとして帯同。
現在は、藤田征樹、中西麻耶、川本翔大、中山賢史朗、藤井美穂、兎澤朋美、小林泰理などの選手の義肢を製作。
 
 
所属先:有限会社アイムス
設立:1990年6月20日
住所: 茨城県水戸市大塚町1912番地7
事業内容:義肢装具製作
URL:http://www.aims.ne.jp/index.html