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THE SUPPORTERS

山口 慎司さん

川村義肢株式会社 関東本部 製造課W&P製造係

義肢や装具、姿勢保持装置などの生活補助具をオーダーメイドで製作している川村義肢株式会社。同社は「お客さまの生命・生活・人生の質を高める」という信条のもと、日常生活に留まらず人々の行動範囲が心身ともに拡がるようサポートを行っている。2013年には関東での技術力と対応力の強化を目的に、関東圏の5つの拠点を一か所に集約させた東京本社を江東区に構えた。 そんな中、関東本部の製造課W&P(車椅子・姿勢保持)製造係に所属する山口慎司さんは、カヌーの瀬立モニカ選手をサポートする「チーム・モニカ」の一員として、競技で使用する艇のシート製作を担当している。入社3年目、チームに若手のメカニックとして携わる立場から、選手のサポートの在り方やご本人の考えについてお話を伺った。
現状にとどまらず、新しいことにチャレンジしたい
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Q:瀬立選手のシート製作に携わるようになった経緯を教えて下さい。
 きっかけは社内公募です。僕は製造の人間で、普段の業務では営業が作成した仕様書に沿って義肢装具などを製作する仕事をしています。前職で建物や公園の設計・プランニングをしていたこともあってか、ある頃から別の案を思いついても仕様書通りに作らなければならないことや、お客さまの顔や自分の作ったものが使われている場面が見えないことに物足りなさを感じ始め、お客さまに提案したり直接話したりしながら、一からものを作っていくことにチャレンジしてみたいと思うようになりました。
 実際社内でもエンドユーザーのお客さまからの直接の依頼にはそのように対応しているのですが、その大半が技術・ノウハウ・人員・設備など、あらゆる面で充実している大阪本社で行われていたため、東京勤務の僕にはなかなかチャンスがありませんでした。そんな中、同じ江東区を練習拠点にしていた瀬立選手からシート製作の依頼が東京本社に入り、会社としてもこのような依頼に東京でも対応していきたいと考えていた時期だったので、若手で希望者がいれば育成も兼ねて挑戦してみようと東京本社内で公募をしたそうです。その掲示を見て僕が応募したというわけです。
 競技用シートの製作は、ある程度パターンが決まっている通常業務での製作とは異なり、選手の障がいや身体能力、競技スキルのレベルに合わせて、どこをどうすれば良いのかということを常に考えながら進めていかなければならず、難しいことも多いです。でもそれ以上にダイレクトに反応がもらえる分やりがいもありますし、日頃の業務に活かせる発見も多く、楽しみながら取り組んでいます。


メンバー全員で試行錯誤しながらのシートづくり
Q:シート開発における支援体制や、役割分担はどうなっているのですか?
 瀬立選手の「もっと速くなりたい」「強くなって世界で勝負したい」という想いに共感したメンバーが集まってできたのが「チーム・モニカ」です。瀬立選手を中心に、ご家族はもちろん、競技と選手をよく知る監督やコーチ、選手の動作解析から科学的データを提供してくれる大学の先生、そしてメカニックである僕らとで構成されています。リオパラリンピックに向けてそれまで使っていたシートを改良した際には、瀬立選手の肉体改造後の身体やテクニックの向上に伴う変化に対応したものにするため、メンバー全員が動作解析の場に立ち会って意見を出し合いました。それぞれ見ている部分や意見が違うからこそ、思っていることを出し合った上でどうするかを考えていくことが大切なのですが、僕たちの場合はLINEのグループでくだらないやり取りがバンバン飛び交うくらい、全員の距離が近く、何でも言い合える関係が築けているのでそれが実現できています。でも、だからといってできたシートがいつも完璧というわけではありません。実際、試作のシートで艇に乗ってみると思った以上に安定性が悪く、瀬立選手が思いきり漕ぐことができないという問題が発生したため、シートの一部を初めに近い形に戻したという経緯もあります。このように、「これが正解」と言えるものがなく、一回で全てがうまくいくことがほぼないからこそ、チームメンバーそれぞれの知見や特技を活かしながら新しいことを試してはチェックし、改善し、また試すというプロセスを根気強く繰り返していくことが必要です。選手が安心して身を任せられ、その時の実力を発揮できる最適なシートを常に模索し、試行錯誤しながらチーム一丸となって取り組んでいます。


経験するだけでなく、自ら考える
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Q:チーム・モニカの一員として関わる中で感じている課題や難しさはありますか?
 一番は、自分がメカニックとしてまだまだ半人前だということです。技術力もまだまだですが、経験も浅い分、あることを実現するのに、何をどうすればそうなるのかという、技術に結びつける発想力がありません。そんな僕にとって、会社の先輩で「チーム・モニカ」の取りまとめ役でもある宮本さんは、経験も実力もあり、尊敬するメカニックの一人です。シート開発を始めて暫くは、ただ宮本さんに言われた通りに手を動かすことしかできませんでしたが、最近は自分なりに何をどうすればいいかを考えてみるようにしていて、それが宮本さんの出した答えと同じだと「合ってた…!」と密かに喜んでいます(笑)。あとは、そうやって考えた意見を口に出して言ってみることも心がけていて、今までは細かい指示まで待っていたことも、自分から言ってみた時に「ええやん。やれやれ」と言ってもらえると、自分もちょっとは成長できているのかなと自信になります。ここはある種職人の世界なので、一人前のメカニックになるためには先輩の技を見て盗んだり、どんな時にどんな理由でどう判断するのかといったことをストックしていくことも大事ですし、本当に毎日が勉強です。色々な経験をしていても自ら考えていないと意味がないので、今はひたすら考えてぶつけてみるということを積み重ねていこうと思っています。


相手の期待に応えられるメカニックになるために
Q:山口さんの考える今後について教えて下さい。
 以前瀬立選手が僕たちのシートに試乗した時に「健常の時みたいに漕げる!」と言ってくれたことがすごく印象に残っているのですが、中途障がいの彼女だからこそ、「健常の時みたい」というのが紛れもなく以前彼女が感じていた感覚だということがわかって、とても嬉しかったんです。自分はメカニックとして、その人の期待に応えたい、喜んでもらいたいんだということを再認識しました。でもそのためには、まずは相手が潜在的に求めていることをきちんと理解するということが必要です。今の僕はまだ相手の言った言葉をそのまま捉えてしまうことも多いので、そうではなく相手の発言の真意を受け取れるよう、日頃から密にコミュニケーションをとることを心がけていこうと思います。
 また、相手の要望を形にするための実力も必要ですが、以前は宮本さんにしか相談していなかった瀬立選手が、ふとした時に直接僕に相談してくれたことがあって…あの時は、メカニックとして少しは認めてもらえているのかな?とちょっと嬉しかった(笑)。より一層、僕も宮本さんのように、相手が全幅の信頼を置けるような一人前のメカニックになりたいと思いました。そして将来的にはカヌーに限らず、またスポーツという範囲にも留まらず、相手の期待に応えられるメカニックになりたい。そのための実力をつけていくためにも、たくさんのことを考え、経験を積んでいけるよう、これからも色々なことにチャレンジしていきたいと思います。

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山口 慎司 (やまぐち しんじ)

埼玉県生まれ。
啓成会高等職業技術専門校 義肢装具科を卒業後、2014年に川村義肢株式会社に入社。
1年目の配属は下肢装具の製造係で組立を担当。
パラカヌーシートの作製を機会に、シーティング技術の向上を目指して、
現在のW&P(車椅子・姿勢保持)製造係へ異動となる。
2015年からスタートした江東区のパラカヌーシートの主力メンバーとして参加し、
2016年のドイツ大会に宮本(大阪)と共にメカニックとして派遣。
現在までのパラカヌーシートの作製数は3台。
 
 
所属先:川村義肢株式会社 東京本社 
開設:2014年
住所:東京都江東区北砂1-19-9
事業内容:義肢・装具の製造販売
URL:http://www.kawamura-gishi.co.jp/
 
宮本 雄二 (みやもと ゆうじ)

大阪府生まれ。
1992年6月に川村義肢株式会社入社。車椅子や姿勢保持シートの製造業務に就く。
2000年にチェアスキー選手のシートを製作。
これをきっかけに車いすマラソンや車椅子バスケットなど
さまざまなスポーツのシート関連製作に携わる。
2016年パラリンピックではパラカヌー競技において
リオデジャネイロに同行する日本選手のメカニックを担当。
現在では、国内外のトップアスリートから依頼を受け数多くのシートや関連部品を製作。
 
所属先:川村義肢株式会社 本社
創立:1946年
住所:大阪府大東市御領1-12-1
事業内容:義肢・装具の製造販売
URL:http://www.kawamura-gishi.co.jp/