障がい者スポーツを応援する:SPORTRAIT

THE SUPPORTERS

木下 まどか

東京大学大学院 総合文化研究科 助教/一般社団法人 全日本テコンドー協会 パラテコンドー委員会 委員

東京大学に助教として勤務する傍ら、選手も続けながら全日本テコンドー協会のパラテコンドー委員も務める木下さん。大学でテコンドーに出会い、「強くなりたい」「勝ちたい」という一心で日々練習を重ね、後に全日本選手権で2位、全日本学生選手権では優勝も果たした。委員会の仕事を通じて様々な人と関わるうちに、競技者としてだけではなく支える側の歓びも知ったという彼女。やることが山積みの中、「やるしかないですよね。それに初めから『できない』って言うの、嫌いなんです」と、カラっとした笑顔で語る木下さんに、パラテコンドーへの取り組みや今後の展望についてお話を伺った。
競技者であり、研究者でもある自分に衝撃を与えた「パラテコンドー」
Q.木下さんがパラテコンドーに携わるようになったきっかけは何ですか?
大学時代の恩師であり、当時全日本テコンドー協会の理事だった、シドニーオリンピック銅メダリストの岡本依子先生に誘われたのがきっかけです。二年ほど前に、協会の仕事を手伝ってほしいと連絡をいただいて…とてもお世話になった先生の依頼ということもあり、三日後には合宿に参加していました(笑)。その頃からパラテコンドーの仕事にも少しずつ関わり始めたんです。ただそれまでは、自分もずっとテコンドーをやっていたのに、「パラテコンドー」というものの存在すら知りませんでした。
そんな自分が、初めて生でパラテコンドーの試合を見たのが翌年のアジア選手権。想像していたレベルをはるかに超えていて、衝撃を受けました。両腕がなくガードのできない選手も“普通に”テコンドーをやっていたんです。自分は大学卒業後、筑波大学院に進み、スポーツバイオメカニクスという分野で人の身体と動きの関係について研究をしていました。だからこそ腕のない人がある人と同じ動きができることがどれだけすごいかが人一倍わかって…彼らの試合を見て、改めて「人間ってすごい!」と感動したのを覚えています。


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がむしゃらに動く中で気づいた“出会い”の大切さ
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Q.パラテコンドー委員会での木下さんの役割と、取り組んでいることについて教えてください。
国際競技団体や海外チーム等からの情報収集と、選手育成のための環境づくり等が主です。東京大会でのパラテコンドー初採用が決まって以降、本当に全てがゼロからのスタートでした。協会内に競技の正式なルールや世界のパラテコンドー情勢を知っている人が少なかったので、競技規則を日本語翻訳するところから始め、大会の度に「今どんな感じ?」と、国際競技連盟や海外チームにとにかく飛び込んでいくということを続けていました。そうやって少しずつ知り合いが増えていく中、昨年のヨーロッパ選手権で一緒になったロシアのコーチ陣とすごく仲良くなったんです。すると彼らが他の国のコーチをたくさん紹介してくれて一気に人脈が広がり、海外チームの実情や練習方法等、今まで入ってこなかった情報も得られるようになりました。しかも、たまたまその中にリオの金・銅メダリストを育てたすごい人がいたんです。こんなチャンスはないと思い、「合同合宿をやろう!」と持ち掛けたら、ラッキーなことにそれもすんなりOKで(笑)。思いがけないところで貴重な出会いがありました。合宿は、今年実現できるようにと準備を進めています。
他にも、筑波大時代に知り合った東大病院の先生との繋がりから、同院のリハビリ科にメディカルチェックやスタッフ帯同、選手候補の障がいを判定する資格の取得等、医療面でサポートいただく予定です。先生、スタッフの方々にパラテコンドーの説明を行い、リハビリ科全体の協力を仰ぐことでサポート体制の拡充を図っています。
初めは手当たり次第に情報を集めていただけでしたが、今は人との出会いの大切さを改めて感じていて。そこで得たものを選手や協会のあらゆるサポートに繋げていきたいと思っています。


何より必要なのは、選手を見つけ、育てていくこと
Q.直近の課題は何ですか?
まずは’20年の東京大会をカタチにすることです。実はこれまで、日本でパラテコンドーの大会を開催したことがないんです…それなのにいきなりパラリンピック開催決定っていう(苦笑)。そこで’20年に先がけて’19年に世界選手権を開催できないか調整中です。決定すれば、まずはそこに向けて国際大会ができる力とノウハウをつけていこうと考えています。
でもそれ以上に急務なのは、日本に与えられる選手枠の数だけ選手を育成することです。我々の働きかけによって少しずつ選手が集まり、先日初めて強化指定選手の選考会を開催し、数名を選出することができました。ただ、彼らを含めてもまだ十分な数の登録選手がいるとは言えない状況…自国開催の大会で「枠が埋まらなかった」では済まされません。引き続き選手の発掘・育成が必要です。
問題は、パラテコンドーの対象となる上肢障がいの方で、選手発掘イベントに来る方が少ないということ。割と普通に生活している方が多いので、自分に選手の資格があるという認識がそもそもないのかもしれません。そこで医療サポートでお世話になっている東大病院にお願いし、患者さん等で対象になりそうな方にパラテコンドーを紹介してもらっています。実際そこから男子大学生が月一回の体験会に来てくれるようになったので、今後もパラテコンドーに興味を持ってくれる対象者がいそうなところを、ピンポイントで当たっていくことが重要だと感じています。
他にも、障がいを持つ子どもたちに運動機会を提供している団体に、パラテコンドーを取り入れてもらうつもりです。それをきっかけに、10年後、20年後に選手として活躍してくれる子が出てきたらいいなという気持ちで取り組んでいきたいと思っています。


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多くの人に知ってほしい、パラテコンドーのすごさと面白さ
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Q.今後について木下さんの想いや考えを聞かせてください。
協会に入った当初は、何をしているところか分からないという印象が強かったので、正直不安もありました。でも入ってみると皆さんオリもパラも関係なく、テコンドー全体のために物凄く頑張っていらした。役員の皆さんが、「日本のために」と、ご自身の仕事の時間を犠牲にして、しかもボランティアで、あちこち動き回って頭を下げてくださっていることを知ったんです。それに協会がなければオリ・パラを含めた国際大会にも出られないわけで…皆さんのやっていることを純粋にすごいと思いました。大学時代からテコンドーを通じて多くの人にお世話になった分、いつか何かで還元したいと思っていたので、「下っ端の自分はもっともっと頑張らなきゃ!」と思うようになりました。
今後は、まずはテコンドー経験者にもっとパラテコンドーのことを知ってほしいです。昔の自分のように知らない人がほとんどだと思うんですよね。でも経験者だからこそ、一般の人よりも距離が近い分面白さがわかるし、興味を持って指導者になりたい、手伝いたいと思ってくれる人がいると思う。関わってくれる人が増えて、パラテコンドーをやりたいという人が出てきた時に、いつでも、どこでも練習できる環境が整っていれば、その中から必ず強い選手が生まれてくると思っていて。そうやってもっとレベルと知名度を上げていって、パラテコンドーもすごいんだということをたくさんの人に伝えたいです。何としてもカタチにする’20年はもちろん、’24年はよりメダル争いに絡めるような選手が増えて、’28年には今から育てていく子たちが活躍してくれたらいいなと。そしていつか「パラテコンドー=日本」ってなったらすごく嬉しいですね。



木下 まどか (きのした まどか)

東京大学大学院 総合文化研究科 身体運動科学研究室 助教
一般社団法人全日本テコンドー協会 パラテコンドー委員会 委員

佐賀県生まれ。
筑波大学大学院博士後期課程修了。博士(学術)。
2017年より東京大学大学院総合文化研究科助教に着任。
全日本テコンドー協会ではパラテコンドー委員会の委員として、主にパラテコンドーの普及、組織運営に従事。
研究の専門は格闘技のバイオメカニクス。
現在は、大学教員としてパラテコンドーの研究を進める傍ら、パラテコンドーの東京パラリンピック開催に向けた渉外活動に励んでいる。
 
所属先:東京大学大学院総合文化研究科
住所:東京都目黒区駒場3-8-1
URL:http://www.c.u-tokyo.ac.jp/
 
所属先:一般社団法人 全日本テコンドー協会
住所:東京都渋谷区神南1-1-1 岸記念体育会館内
URL:http://www.ajta.or.jp/