障がい者スポーツを応援する:SPORTRAIT

THE SUPPORTERS

小倉秀昭さん

KYBモーターサイクルサスペンション株式会社 技術部 専任部長

世界トップレベルの油圧技術を核に、自動車や二輪車をはじめとして、航空機や建築物に至るまで幅広い産業を支えるKYB株式会社。同社をはじめとしたグループ各社を含む全社的なプロジェクトとして、アルペンスキー・チェアスキーチームへの支援活動を行っている。プロジェクトのメンバーとして、チェアスキーの主要部品の一つである「ダンパー」の開発や選手へのテクニカルサポートを行うKYBモーターサイクルサスペンション株式会社技術部の小倉秀昭氏にお話を伺った。
部門横断型プロジェクトチームの再構築
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Q:アルペンスキーに使用する「チェアスキー」の開発に携わるきっかけは何だったのでしょうか?
弊社は、自動車や二輪車の「ダンパー」と呼ばれる機器を製造しています。1990年初め、仕事上取引のある企業より、アルペンスキーで使用する「チェアスキー」のダンパーを開発しないかと声が掛かりました。チェアスキーは、シート、フレーム、スキー、そして、ダンパーなど複数の部品から構成され、その中でダンパーは、雪面からの衝撃を吸収、軽減する膝関節のような役割を果たします。開発当初より、弊社のダンパーを使う選手がメダルを獲るなど、良いサポートができていました。

しかし、2014年のソチ大会前後、担当者の多忙、海外赴任など弊社の内部的な事情が重なり、技術開発やテクニカルサポートが手薄になっていました。常に全力で競技に打ち込む選手に対して、我々は信頼されるサポート体制になっていないことに気が付きました。そこで、それまでの技術部門を中心とした体制から、企画部門や広報PR部門、営業部門など、多方向からもサポートができる部門横断型のプロジェクトチームに再構築しました。2015年8月には、日本障害者スキー連盟、アルペンスキーのナショナルスポンサー、オフィシャルサプライヤーとなり、メダリストである鈴木猛史選手を社員として迎え入れ、彼の競技活動を支援するとともに、技術開発や現地でのテクニカルサポートに選手の視点を取り入れています。


手探りの活動から信頼を築き、繋げてきた体制
Q:技術開発やテクニカルサポートの体制について教えてください。
私は普段、二輪車などの競技用ダンパーを設計する技術部門にいます。プロジェクト体制を再構築する時、アルペンスキーも雪上で速さを競う競技、これまで他の競技で実施してきたテクニカルサポートのノウハウが生きると思いました。現地では、エンジニア・メカニック、テストライダーなど多様なメンバーが、選手をサポートしています。技術部のプロジェクトメンバーは自由に選ぶことができたので個性的な人材で構成しました。例えば、中心メンバーである設計担当の石原さんは、プライベートでも休日に二輪車の草レースに出場して楽しんでいる仲間です。北海道出身でウィンタースポーツは一通りできるし、自動車、二輪車の競技好き、ピンときて「一緒にやろう」と指名しました。

最初は、選手がダンパーに何を求めているかわからなかったので、みんなでワンボックスの作業車でゲレンデに向かい、リフト乗り場の近くにテントを張り、石原氏が新たに設計し直したダンパーで滑ってきた選手の声を聞いて、その場で調整するということを繰り返しました。雪山でのサポート経験がないため、キンキンに冷えた金属の部分を素手で触り痛い思い(やけど)をしたり、雪の中をズボズボと埋まりながらテントや工具を運んだり、今思えば随分と笑える経験もしました。

また、選手のコメントに対する理解が不十分で間違った方向へ仕様変更してしまったことがあり、そのことが選手の不安につながっていることに気がつきました。そこで、現場(ゲレンデ)だけでなく食事や個別のミーティングなど、コミュニケーションの頻度を増やすことで、選手が普段からどんなことを考え、求めているか、より深く知りたいと思いました。
結果として、選手の不安要素を減らすことや信頼関係の構築に繋がりました。今、現場では、エンジニア、メカニック、テストライダー、選手といった多様な視点から議論を重ねることで同じ目標を定め、達成したイメージを作り上げていくことを心がけています。

Q:現地では、どのようなことをするのですか?
ダンパーは、雪面から伝わる衝撃や振動を吸収する力である「減衰力」を調整することで、スキー板に伝わる力や滑るリズムを調整できます。私たちの中では、仕様が定まり良い方向に調整が進んだマシンのことを「ストライクゾーンが広い」と表現しますが、チェアスキーにおいてもストライクゾーンが広いダンパーを選手に提供するためにテストと調整を重ねます。テストでは、身体特性やコースなどに合わせて選手ごとに設計したダンパーと数十種類の部品、工具を持ち込んで、ばねやピストンなどの内臓部品を交換しながら、仕様を詰めていきます。そして、レース直前は、なるべく選手の近くでコミュニケーションを取り、微妙に変化するコンディションに合わせて選手の好む方向に微調整ができるようにしています。実は、現地でテクニカルサポートを実施するチェアスキーチームは世界でもまだ珍しいのではないでしょうか。

変化に対応し、選手が良いと感じるものを
Q:今後の目標や展望について教えてください。
2018年のピョンチャン大会で日本代表選手全員が「これなら勝てる!」と思えるダンパーを開発・提供することです。ある日のテストで鈴木選手が「これ凄い、バタバタ音がしない、静かです!」と驚いていたことがありました。あれは、ダンパーが良い仕事をしてスキーが雪面に吸い付くように滑っているから静かなんです。今思い出してもうれしかった。選手がどんなコンディションでチェアスキーに乗ることになっても、いつも同じ操作性、乗り心地になるものを目指しています。タイヤという緩衝材の役割を担うものが少ないチェアスキーのダンパーで、あらゆる状況、変化に対応できる、ストライクゾーンが広いものが開発できれば自動車や二輪車等にもその技術を反映できると期待しています。

小倉 秀昭 (おぐら ひであき)

1963年東京都生まれ。
工学院大学機械工学科卒業。1986年KYB株式会社入社。
研究部門、設計部門、完成車メーカー出向、
海外駐在を経て2008年より二輪車の競技用ダンパー設計に携わる。
現在は世界選手権ロードレース/モトクロス、
全米選手権モトクロス競技を活用したブランド戦略、
全日本選手権ロードレース/モトクロス競技を活用した製品開発をするグループのリーダー。
自身も二輪車、四輪車、自転車等の競技参加を趣味としている。
1996年オーストラリアで開催された
マウンテンバイク世界選手権マスターズクラスでは3位表彰台獲得。
 
石原 亘 (いしはら わたる)

1984年北海道生まれ。
秋田県立大学システム科学技術学部機械システム工学科卒業。
2009年KYB株式会社入社。
スノーモービル、ATV用ダンパーの設計を経て、
2015年よりチェアスキー用ダンパーの設計に携わる。
また、設計開発を行う傍ら、
チームの海外遠征にも同行し現地での仕様変更等のテクニカルサポートも対応する。
趣味はモトクロス、自動車ラリー競技への参加や、
スキー、スノーボードなどのウィンタースポーツ等。
 
 
所属先:KYB株式会社
創立:1935年3月
住所:東京都港区浜松町2-4-1 世界貿易センタービル
事業内容:油圧緩衝器、油圧機器、システム製品等の製造・販売
URL:https://www.kyb.co.jp/
 
所属先:KYBモーターサイクルサスペンション株式会社
設立:2013年10月
住所:岐阜県可児市土田2548
事業内容:二輪車用油圧緩衝器の製造
URL:http://www.kms.kyb.co.jp