障がい者スポーツを応援する:SPORTRAIT

THE SUPPORTERS

佐藤 勇治さん

陸上自衛隊 第11通信隊 曹長

スキー競技において、スキー板に塗装するワックスの選定と塗装方法は、スキーの技術と共に重要な要素だと言われ、世界でもトップレベルのチーム・選手の側には、ワックスマンという専門家の存在がある。陸上自衛隊第11通信隊に所属し、防衛・警備及び災害派遣時の通信の確保等を担当する部隊員としての顔を持ち、同時に2015-2016シーズンのパラリンピック日本チームのテクニカルコーチ/ワックスチーフコーチである佐藤 勇治さん。これまでの経験を活かし、日本チームが世界を目指すためにどのような取り組みをされているかお話を伺った。
頭を抱えたバンクーバーのコースコンディション
Q.障がい者クロスカントリー日本チームに携わることになった経緯を教えてください。
私が所属する陸上自衛隊第11旅団には、「冬季戦技教育隊(以下、冬戦教)」という日本唯一の冬季戦時における戦技の訓練や研究等を行う専門部隊があります。高校卒業後、冬戦教内のバイアスロン・クロスカントリースキーのトップ選手の育成を図ってきた「特別体育課程教育室」に入隊し、選手やスタッフとしてスキー競技に携わってきました。クロスカントリースキーの日本代表チームにも冬戦教所属の選手やスタッフが多くいて、私もその一人でした。
障がい者クロスカントリー日本チームとの出会いは、2010年バンクーバー大会に遡ります。私は、オリンピックの日本選手団のワックスマンとして大会に参加していました。当時、コースコンディションが非常に悪かったため、ワックスの選定が非常に難しく、各国のワックスマンが頭を抱えました。なんとか大会を乗り切ったのですが、すぐ後に同じコースで戦うパラリンピックチームにもこのことを伝えてあげようと、代表チームの荒井監督に話しに行ったのです。私は、元々怪我に悩まされた選手だったので、必然的に障がい者クロスカントリー選手の身体の使い方、それぞれの能力に合わせた戦略に興味を持っていました。帰国してからも、テレビで応援して当時の代表選手が金メダルを獲ったことに感動したことを覚えています。
それからしばらく経ち、冬戦教から全く異なる通信隊に異動になり、スキー競技とは関わりが薄くなり、さぁのんびりしようかと思っていたところ、荒井監督から「協力してほしい!」と声がかかったのが始まりです。

※冬戦教「特別体育課程教育室」は、2016年3月28日から「体育学校冬季特別体育教育室」になりました。


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選手ごとの特徴を具体的に掴む
Q. 障がい者クロスカントリースキー日本チームにおける佐藤さんの役割を教えてください。
テクニカルコーチ/ワックスチーフコーチとして、2014年12月から日本チームに参加し、日本チームのヘッドコーチである長濱コーチと一緒にチーム・選手のコーチング、そして、数人いるワックスマンのリーダーをしています。
基本的には、合宿や遠征に帯同し、選手一人一人のスキルを上げていくための実践・実技練習を一緒に行いますが、住んでいる地域が近い選手とは日常の練習から一緒に行うこともあります。私が選手の練習を見る時は、必ず、選手の横で一緒に走ってみます。選手の脇に出てみたり、真後ろに回ってみたりして様々な角度から選手の様子を細かく見ていくことで、うまくいかないポイントはどこなのか、どんな癖があるのか、選手ごとの特徴を具体的につかむことができるからです。
また、ワックスマンとしては、大会などで各国に与えられるワックスキャビンという作業部屋を使いやすいように開設することからスタートします。この時から、勝負は始まっていると言われ、強い国ほどキャビンがきれいで使いやすいように工夫されています。そして、ワックスの選定・塗装を行い、コースに出て下見やテストを行います。ワックスは、雪質、雪の結晶の状態、気温、天候、種目、選手の特徴を考慮、予測して何百種類の中から選択します。もちろん、塗装する範囲や方法も状況に応じて変わります。入念にテストをした結果を踏まえ、最適だと判断したワックスを選択し、塗装を施し、スキー板を最高の状態に仕上げて選手に渡します。



ワックスマンという専門家の存在
Q.ワックスについて教えてください。
スキー競技においてワックスの選択や塗装方法は、スキーの技術同様に試合の選手のパフォーマンスに大きく関わります。スキーの技術が高くても、スキーの板面の滑走性が悪いとスピードに乗ることができなくなってしまうので、トップレベルの選手でも、日ごろのトレーニングや大会前の調整がうまくいったのに、当日のワックスの選定と塗装方法に失敗して、本来の力を出せないことはよくあることです。ワックスには、滑るスピードを上げるために塗るグライドワックスと、スキーを前へ押し出す時にもう片方の足で踏ん張れるようグリップを効かせるために塗るグリップワックスがあります。種目によって異なりますが、その2つのバランスが崩れると板が滑って前に進めなかったり、逆に全く滑らなくて必要以上に体力を消耗してしまいます。選手が走りに集中するためにもワックスマンという専門家の存在は重要で、世界大会などの大きな大会では、ワックスマン同士の情報戦になり、パッケージをテーピングで隠したり、中身を着色したりすることで、レース本番で使用するワックスを外に漏らさないようにする強豪国がいるくらいです。


強豪国のマネをしていても一番にはなれない
Q.今後の展望を教えてください。
スキー競技において重要な役割を担うワックスですが、そのことを理解していない選手が多いのが現状です。ワックスは敗因になってしまうこともあるので、選手自身がワックスについて理解した上で、現場で感じたことをありのままに伝え、ワックスマンも選手が言うことがどういうことなのか理解する必要があります。最近では、大会がない合宿などで、選手にワックスの選定から塗装まで一人でやってもらいそのスキー板で練習して、違いを体感することで、その重要性を実感してもらうと同時に、ワックスマンも選手とコミュニケーションをとることを意識するようにしています。
実は、冬戦教時代の1999年から、日付、国、地域、天候、気温、雪質などの条件とワックスの種類や塗装方法、そして、キック(止まり具合)、グライド(滑り具合)、トータル(選手の感覚)の3つの項目で5段階評価をして、データとして蓄積しています。一番評価が高いのが「1」です。冬戦教時代から「1」の評価がつけられたことは、数えるほどしかありません。日本チームのワックスマンとして更に上を目指すために、海外の強豪国の研究はしますがマネばかりしていても一番にはなれません。強豪国を見ていても、ワックスマンの個人の知見や経験に頼ることが多いのですが、客観性のある正確な判断が可能になっていけば「1」の評価が付く頻度が増えていくのではないかと思います。2018年の平昌大会では、最強のワックスマンとしてチーム、選手をサポートして、世界で一番を勝ち取り、センターポールに掲げられる日本の国旗に敬礼したいですね。


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佐藤 勇治(さとう ゆうじ)

陸上自衛隊 第11通信隊 曹長
昭和42年生まれ。山形県出身。昭和60年山形県立金山高校卒業。
自衛隊に入隊、冬季戦技教育隊 特別体育課程教育室 クロスカントリ班に所属し、
1997年まで選手として勤務。主な成績は1995年全日本選手権30kmクラシカル2位。
選手引退後、引き続き助教(コーチ)として勤務。
2002年ソルトレイクオリンピック、2006年トリノオリンピック、
2010年バンクーバーオリンピック、2014年ソチオリンピックにワックマンとして参加。
2014年ノルディックコンバインドの渡部暁人選手が銀メダルを獲得。
2014年3月第11通信隊に転属し、
同年12月からパラチームのワックスマンとして今に至る。
 
 

所属先:陸上自衛隊 第11通信隊
創隊:昭和37年1月 平成26年から体制移行に伴い、隊化
住所:札幌市南区真駒内17番地
任務内容:第11旅団隊区(道央・道南地域)を活動地域とし、旅団の防衛・警備及び災害派遣時、旅団長と連隊長等との間の通信確保や 写真・ビデオ等の撮影などを行う。
URL:http://www.mod.go.jp/gsdf/nae/11d/













※記事内の写真に登場するのはクロスカントリースキー・シットスキーの新田のんの選手です。