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ATHLETES' CORE

パラローイング


どのチームが一番速くゴールするかを競うボート競技「パラローイング」。とてもシンプルだが、メンバーの布陣や相性で勝敗が分かれる戦略的な競技でもある。それが最も顕著に現れるのは、1つのボートに視覚障がいと肢体不自由の男女2人ずつの選手、そして障がいの有無を問わないコックス(舵手)が乗り込む「PR3クラス混合舵手付きフォア」だ。勝敗を分けるのは、いかに多様な障がいを持つメンバーを1つにまとめられるかだ。チームを牽引するのは、世界大会の出場経験を持つ有安諒平選手。東京パラリンピックでメダル獲得を目指す。
惨敗という経験から
 2018年9月、ブルガリアで開催された世界ボート選手権大会。
PR3男子ペアクラスに出場した有安諒平選手は、初めて出場した世界大会という大舞台に気持ちが舞い上がった。ペアの西岡利拡選手と息が合わず、オールを漕ぐ腕に無駄に力が入り、水面をバシャバシャと叩くばかりで思うようにボートが前に進まなかった。タイムは8分34秒24。上位に1分以上の差をつけられ、4位でフィニッシュした。

有安選手にとって、パラリンピックでメダルを獲るような海外の選手たちとレースで戦うのは、この大会が初めての経験だった。
「自分が結果を出していくことで、競技の魅力を伝えていきたい、まずはその第一歩。そんな風に考えて臨んだ大会でしたが、このままではみんなに見てもらうどころか、ただ惨敗して終わってしまうかもしれない」。試合直後はそんな思いが有安選手の頭をよぎったという。

しかし、そんなことを言っている場合ではないとすぐに思い直し、自身のトレーニング方法やチームにとって自分ができることはないかと、前向きに模索し始めたと有安選手は振り返る。
「圧倒的な力の差を感じました。でもそこからですね、意識が切り替わったのは」

ボートを漕ぐのと同じ動きを室内でトレーニングできるように、自宅のリビングに「エルゴメーター」という器械を導入した。現在、医学研究の仕事とトレーニングを両立しながら、距離にして月に数百キロは漕ぐ。平日の5日はウエイトトレーニングとエルゴメーターでのトレーニングを行い、週末には水上で実戦を想定しながらチーム練習を行う。現時点で、ブルガリア大会出場時点でのタイムを数十秒単位で短縮するなど、練習の成果が出ている。「まだ伸びる実感がある」と有安選手は言う。

多様なメンバーで挑むチーム戦
 「パラローイング」は全身の動きを3メートルのオールに乗せて漕ぎ続けるタフなスポーツで、2008年の北京大会から正式にパラリンピック競技になった。障がいの区分や、ボートに乗り込む人数によって様々なクラスがあるが、花形はなんと言っても5人乗りのクラス。有安選手が挑む「PR3クラス混合舵手付きフォア」だ。このクラスは、コックスの指揮のもと、肢体不自由と視覚障がいの男女2人ずつがボートを漕ぎ、計5人が1つのボートに乗り込み、ゴールを目指す。

 といってもパラローイングはまだマイナーな競技で、有安選手は「よくカヌーと混同されるんですよ」と笑う。カヌーとは違い、ローイングは進行方向に背を向けてオールを漕いで進む。オールは船に固定されている点もカヌーとは異なる。座っているシートが前後に動くのも特徴で、脚の力を含めた全身の力で漕ぐ必要がある。

 認知度が低いためか、女性の競技人口は日本では少ない。「PR3クラス」に出場するためには女性選手が2人必要だが、昨年まで日本ボート協会の設定する強化・育成基準を超えるタイムを持っている選手は、八尾陽夏選手1人だけだった。年末に元ブラインドサッカー女子日本代表主将の齊藤舞香選手が強化・育成指定選手になり、念願叶ってやっと「PR3クラス」のレースに出られるようになった。

 齊藤選手が加わり、4人でトレーニングできるようになって約半年。競技経験、力量、性別、障がい特性もバラバラなチーム。4人のパフォーマンスを最大限に発揮させるにはどうしたらいいか。例えば、誰がどの順番でボートに乗り込むか、ということも重要な戦略の一つになってくる。

チームにとって最高の形を日々追求するために、水上でボートを漕ぐことができる貴重な練習は無駄にしない。言葉にはしないがそんな「暗黙の了解」がチームにはあるのかもしれない、バラバラな4人がぶつかることは不思議と少ないという。
一同に集まって水上でトレーニングできる日は多くはない。絶好の試行錯誤の機会と、クタクタになって暗くなるまで練習に勤しんでいる。

“自力”初出場を目指して
幼いころから視覚障がいがコンプレックスで、運動が嫌いだったという有安選手。理学療法士をめざして大学に通っていたときパラスポーツを知った。最初に触れた競技は柔道だった。
「目が見えないから運動ができないと思いこんでいたけど、やってみたら楽しくて、自分の可能性が広がりました」と有安選手は振り返る。
 
そして2016年、パラローイングに出会う。一番惹かれたのは、その懐の深さだ。異なる障がいを持っている人たちが1つのボートに乗り、呼吸を合わせて漕ぐという一体感がたまらなかった。力量や特性の違いがあることはいっけんするとチームにとって弱みだが、弱みを上手にカバーしあうことで多様性に富んだチームになる。
 「障がい特性が違う4人が、同じタイミングでオールをキャッチ(漕ぎ始め)して、同じ力、同じタイミングでフィニッシュするのは本当に難しい。でも全員の気持ちとタイミングがあったとき、ひと漕ぎで水面を進んでいくんです。これはクセになるほど気持ちいい。世界最強のクルーを目指して、心をひとつにして頑張っていきたい」と話す。
 
「昨年の後半にチームとしてスタートして、チーム作りとトレーニングを急ピッチで進めてきました。特に強化指定レベルに到達した選手のフィジカル的な数値はトップ選手とも十分戦えるところまできました。このチームでの公式戦出場は初めてに近しいですが、これまでの成長曲線を考えると、8月の大会で結果を出すことは現実的な目標です」
 今年8月にはオーストリアで世界選手権大会が控える。そこで8位以内に入ると、東京パラリンピックへの出場権が獲得できる。東京パラリンピックの舞台でメダル獲得が最終目標と意気込む。

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有安 諒平 (ありやす りょうへい)
 
パラローイング PR3/杏林大学医学部統合生理学教室医学研究科
1987年2月2日、米サンフランシスコ生まれ。
15歳の時、黄斑ジストロフィーの診断を受け、視覚障がい者となる。
自由学園最高学部(大学)2年時に筑波技術大学に転学し、
理学療法士を目指すと同時に柔道を始め、視覚障がい者柔道で強化選手に。
2016年に参加した「パラリンピック選手発掘プログラム」で、
その身体能力をかわれ、パラローイングを始める。
2017年にパラローイング委員会の指定強化・育成選手に、
2018年には 東京都アスリート認定選手に選出。
2018年の「第48回世界選手権(ブルガリア)」でPR3男子ペアに出場し4位入賞。
2019年 日本ボート協会指定強化選手。
 
 
取材・撮影:越智 貴雄  取材・文:SPORTRAIT編集部