ニコ・カッペル(ドイツ)
砲丸投げでパラ連覇を目指す、
小さくてビッグなアスリート

ニコ・カッペル(ドイツ) 砲丸投げでパラ連覇を目指す、 小さくてビッグなアスリート

東京パラリンピック1年前。その直前にあたる8月22日に、東京・有楽町朝日ホールで「WHO I AM フォーラム」が開催されました。WOWOWのパラリンピック・ドキュメンタリーシリーズ「WHO I AM」の上映とパラアスリートらによるトークイベントで構成される同フォーラムは今回で6回目を迎え、陸上競技砲丸投げのリオパラリンピック王者、ニコ・カッペル選手(ドイツ)らが参加しました。
イベント直前、「SPORTRAIT」ではニコ選手に独占インタビューを実施。低身長症クラスの砲丸投げでリオパラリンピックを制したニコ選手は、自身の身体の特性を生かし、貪欲な姿勢で世界王者まで上り詰めました。時に生真面目に、時にコミカルに。アスリートと政治家という2つの顔を持つニコ選手の思いの源泉を探りました。

  1. Topic 01 6回目を迎えた 「WHO I AM フォーラム」

    • WOWOWと国際パラリンピック委員会(IPC)との共同プロジェクトによるパラアスリートのドキュメンタリー・シリーズ「WHO I AM」。2016年から20年までの5シーズンで、40組のアスリートが登場します。そのシーズン4の放送に合わせて開催された本フォーラムでは、車いすテニスの上地結衣選手のドキュメンタリーが上映されました。
      上映後のトークイベントには、上地結衣選手、ロンドン、リオの両パラリンピックでメダルを獲得した競泳の木村敬一選手、さらにニコ選手がゲストで登場。それぞれの競技で世界トップに君臨する3名のパラアスリートが、自身のモチベーションの源泉や矜持について、熱のこもったトークを展開しました。
      今回のイベントに合わせてドイツから来日したニコ選手。東京の街中にパラリンピックの広告が掲載されていることに気持ちを動かされたといいます。司会を務めた松岡修造さんの「日本はパラリンピックをどう迎えるべきか?」という問いに、ニコ選手はこう答えました。
      「とても簡単なことさ。パラリンピアンを、オリンピアンと同じように迎えてほしい。僕も自分自身をモチベートし続けて、来年きっと東京に戻ってくるよ」
      6回目を迎えた「WHO I AM フォーラム」。東京パラリンピック1年前と重なるタイミングに、多くの来場者が観客席を埋め、アスリートたちの語りに耳を傾けました。

  2. Topic 02 ニコ・カッペル選手 独占インタビュー

    • 「調子は良いよ。今年の目標は11月の世界選手権だけど、その先にある東京パラリンピックに向けて、もっと遠くへ砲丸を飛ばせたらいいね」
      そう語るニコ選手は昨シーズン、故障に悩まされていました。
      ニコ選手の投てきスタイルは「回転投法」。体を高速で回転させながら砲丸を投てきします。ステップを踏んで投てきする「グライド投法」と比較し、砲丸にパワーを伝えやすいことがメリットと言われます。
      試技を行うサークルの直径は、健常者の大会と同じ2.13メートル。体が小さいニコ選手は、サークルの“広さ”を最大限に活かすため、回転速度を高めることで記録を伸ばしてきました。WOWOWのパラリンピック・ドキュメンタリーシリーズ「WHO I AM」ではこう話しています。
      <高速で回転することが重要なんだ。フィギュアスケートで回転するとき、手足を開くとゆっくりになるけど、身体に近づけると速くなるよね。あの原理さ>
      しかし、低身長症のニコ選手にとって回転投法は諸刃の剣。体が小さいことによって、より回転時の負担が大きいのです。昨年夏には腰、冬には膝を故障。患部を休ませながらトレーニングを続けてきました。
      故障が癒えた今シーズンは、6月に自己記録を9センチ更新する14メートル11をマーク。現在世界ランキングは2位につけています。

    • 記録更新の要因について、ニコ選手は、「フォームの改善」を挙げました。
      「今までのポジションから(身体の)ひねりを深くして、より回転スピードを上げる工夫をしているんだ」
      “諸刃の剣”である回転投法。身体のひねりを重視すれば、それだけ身体への負荷も増すはず。昨年は故障に苦しんだニコ選手は、自らの身体とどう向き合っているのでしょうか。
      「今、ウェイトトレーニングの重量を上げて、230キロのバーベルを挙げている。そのおかげで足腰が強化されたんだ。だから、フォームの改善にも耐えられていると思う。筋力強化と投法の改善。2つが重なれば、あとは砲丸が気持ちよく飛んでいってくれるはずさ」
      現時点でのフォームの完成度は――? そう尋ねると、ニコ選手は言います。
      「数字で示すことはできないな。だって、改善の余地は常にあるものだから。リオでは13メートル57で勝ったけど、東京では14メートル30から40が優勝ラインになる。4年間で約1メートル水準が伸びているんだ。自分の中の完成度というより、他の選手に負けないよう、怠りなく改善の道を探し続けるだけだよ」

    • ニコ選手にとって“盟友”とも言うべき人物がいます。同郷のマティアス・メスター選手です。ニコ選手が陸上競技を始めて間もない頃、08年の北京パラリンピックのやり投げで銀メダルを獲ったのがマティアス選手。当時13歳だったニコ選手の目標となりました。競技者としてのロールモデルを見つけたニコ選手の歩みは、16年のリオパラリンピック金メダル獲得へと結実していきます。
      今ではともにトレーニングを積み、プライベートでも親しくする二人。SNSではともに作成したコミカルな動画をしばしば投稿しています。
      マティアス選手と出会った頃を振り返って、ニコ選手はこう言います。
      「どんなことでも笑い飛ばせる彼は、僕や家族にとって重要な存在だった。身体が大きい、小さいなんてどうでもいい。背が低いことで苦手なこともあるけれど、得意なことだってある。例えばマティアスは周囲の人をたくさん笑わせることができるんだから。自分が持つ可能性を最大限発揮するということを、彼から学んだんだ」

    • ニコ選手は現在、パラ陸上のアスリートと、市議会議員の二足のわらじを履いています。ベテラン議員にも物怖じせず、市政の場で積極的に発言する姿がドキュメンタリーでも描かれています。
      そんなニコ選手は、競技力の研さんだけではなく、社会に対して、パラリンピアンである自分ができることを常に模索し続けています。
      「パラリンピックは、世界中の人々の代表として振る舞う場だと思う。低身長症のアスリートとして、自分に何ができるのかを世界中の人々に示さなければいけないと思っているよ」
      ニコ選手によれば、ドイツは障がいの有無に関わらず、ともに生きる社会を実現しようとしていると言います。
      「その過程で、僕も多くのプロジェクトに取り組んでいる。障がいのある子ども、ない子どもを一緒に集めて、僕が砲丸投げの見本を見せる。小さくたってできることがあるということを示すのもその一環さ」
      そしてこう続けました。
      「僕にはダンクシュートなんて到底できない。それは一目瞭然だよね(笑)。でも僕が伝えたいことは、一人の人間として自分の強みを見つけ、社会で生かしていくことの大切さ。それをいつだって伝えていきたいね」

    • 来年に迫った東京パラリンピック。ニコ選手はF41(低身長)クラスの砲丸投げ選手として、連覇を目指すことになります。
      彼の戴冠を阻止すべく、猛者たちも立ちはだかります。リオの舞台でも競い、18年のヨーロッパ選手権を制したバートシュ選手(ポーランド)。さらに現世界記録保持者のデューク選手(イギリス)。「誰が勝ってもおかしくない。その中で一緒に競えていることは面白いね」と、ニコ選手は言います。
      「エキサイティングな戦いは観戦者にとっても良いこと。バートシュが14メートル9、デュークが14メートル19(=世界記録)、そして僕が14メートル11。どんな勝負になるか今からワクワクしているよ!」
      昨シーズンの悔しさを糧に自分と向き合い、フォームの刷新とパワーの増強を行ってきました。6投の試技中、各1投は一瞬。重圧の中で、パワーとテクニックの調和が試されます。
      「良いフォームで投げる回数を蓄積することで、理想の型を自分の体に染み込ませていく。しっかりトレーニングを積めているから、来年の東京では良い結果が出るんじゃないかな」
      ニコ選手の進化は、新国立競技場のサークルに立つその日まで続いていきます。

『IPC&WOWOWパラリンピック・ドキュメンタリーシリーズ WHO I AM』
シーズン4 現在放送!
ニコ・カッペル選手出演のシーズン3は、無料配信中
詳しくは番組HP⇒ https://www.wowow.co.jp/sports/whoiam/

GUEST PROFILE

選手名が入ります

1995年、ドイツ・シュツットガルト近郊生まれ。低身長症。パラ陸上F41クラス。ドイツで同じく低身長症選手のマティアス・メスターに憧れ、2008年に本格的に陸上競技・砲丸投げを始める。2015年、カタール・ドーハで開催された世界選手権で、12.85mを記録し銀メダルを獲得し、2016年リオパラリンピックで1cm差の勝負を制し金メダルに輝く。2017年にはロンドン世界選手権で金メダル獲得。2018、19年と記録を更新し続け、東京パラリンピックでは連覇を目指している。

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