東京パラへ収穫となったチームワーク

1点差で敗れた“因縁のライバル”との準決勝

開幕前、「多様性のあるチームを目指す」と語っていたケビンHC。その狙い通り、予選プール第1戦のブラジルは全12人、さらには第2戦のフランスも9人が出場し、チームのバリエーションの多さを見せた。特にブラジル戦では、チーム最年少の橋本勝也選手が最多の18得点を叩き出す活躍を披露。さらに、中町俊耶、長谷川勇基の両選手が橋本選手と同様に国内での国際大会初デビューを果たすなど、若手の台頭が光った。

その余勢を駆って臨んだヨーロッパ選手権3連覇中の強豪イギリスとの第3戦にも快勝した日本は、予選プールを1位で通過。準決勝の相手は、2012年ロンドン、2016年リオデジャネイロと、パラリンピックでは2大会連続で金メダルに輝いているオーストラリアとなった。世界随一のパワーとスピードを兼ね備えたエースのライリー・バットを擁し、現在世界ランキング1位の最強軍団だ。

そのオーストラリアと日本は今、“因縁のライバル”関係にある。昨年の世界選手権では予選でこそ13点差と完敗を喫したものの、決勝では勝利を挙げて優勝している。一方、今年9月のアジアオセアニアチャンピオンシップスでは予選は延長戦の末に勝ったが、決勝では惜しくも敗れた。

そんなオーストラリアとの準決勝は、両者ともに一歩も譲らない、予想通りの大接戦となった。第3ピリオドを終えて、40-40。勝利の女神がどちらに微笑むかは、誰にもわからなかった。そんななか、軍配が上がったのは、オーストラリアだった。

勝敗を分けたのは、第4ピリオドの序盤だった。トライラインに近づけさせまいと、オーストラリアは自陣のキーエリアまで深く下がってのキーディフェンスを敷いてきた。これに対し、何とか突破口を見つけようとする日本。池透暢選手がボールをキープし、池崎大輔選手が相手のディフェンスをかいくぐるようにしてトライポスト付近へ。そして池崎選手がトライするための隙間をトライポストと自分との間に作ろうとしたのが乗松聖矢選手だった。

ところが、その乗松選手を背後から力づくでオーストラリアのクリス・ボンドが押し出した。ボールを持っていない中でトライラインを越えた乗松選手にペナルティが課され、日本のターンオーバーに。オーストラリアボールとなり、痛恨の失点を喫してしまった。結局これが最後まで大きく響き、日本はわずか1点差に泣いた。

チーム力アップにつながる若手の台頭

試合後、「悔しい」という言葉が多く聞かれる中、その悔しさをこらえきれず人目もはばからずに涙を流した選手がいた。橋本選手だった。この試合、一度も出場機会を与えられなかった橋本選手。だからこその責任を感じていた。

「悔しいの一言です。日本が負けたからというのもありますし、自分が試合に出られなかったというのもあります。今日の試合はすごく競った試合で、体力的にも辛かったと思うんです。そこを自分が少しでもカバーできていれば、勝てる可能性もあった。それでも出ることができなかったというのは、自分の実力の無さでもある。この悔しさは今後に絶対つながると思うので、これをバネにして練習していきたいです」

インタビューの途中、それまで必死にこらえていた涙がとめどなく頬を伝って流れ落ちていった。声を震わせながらも思いを語った橋本選手。試合後に涙を流したのは、これが初めてのことだと言い、悔しさと情けなさに、今すぐにでも声を出して泣き叫びたい気持ちを懸命にこらえているようにも感じられた。

現在、ハイポインターの主力は、44歳の島川慎一、41歳の池崎、39歳の池と3選手いずれも“アラフォー”世代。そこへ昨年、すい星のごとく現れた橋本選手の存在、そして彼の成長は日本の大きな武器となることは間違いない。しかし、すべての面においてまだ発展途上の状態であることも事実。厳しい現実を突きつけられた橋本選手だが、これが東京への飛躍のきっかけとなるはずだ。大粒の悔し涙に負けん気の強さが垣間見られ、さらなる期待が膨らんだ。

一方、このオーストラリア戦で一躍、存在感を示したのが長谷川選手だ。長谷川選手は、障がいの程度が最も重い持ち点0.5のローポインター。橋本選手と同じく、今大会が国内における代表デビュー戦となった。

予選プール第2戦のフランス戦を皮切りに、第3戦のイギリス戦、そして準決勝のオーストラリア戦と、3試合連続でスターティングメンバーに抜擢された長谷川選手は「試合に出場することにも慣れてきて、徐々に緊張せずに集中してプレーすることができるようになっている」と語り、ハイポインターをサポートする役割だけでなく、持ち前のローポインターらしからぬ巧みなボールハンドリングでチームに貢献した。

さらに、パワーもスピードも世界随一であるオーストラリアのハイポインター陣の動きを長谷川選手が封じるシーンが何度も見られた。開幕前、「少しでも相手に脅威を与えられるようなプレーをしたい」と語っていた長谷川選手だが、その通りの活躍ぶりに、同じ持ち点でチーム最年長の岸光太郎選手も「彼が好プレーをするのは嬉しい反面、自分はもっといいところを見せたいという思いでいる」とライバル心を燃やしていた。

橋本選手も長谷川選手も、昨年から代表活動をスタートさせたばかりで、その著しい成長スピードには目を見張るものがある。彼らのような若手の台頭が、ベテラン勢に大きな刺激となり、チーム全体の士気が高まることは言うまでもない。彼らの存在が一つの原動力となり、チームは今、さらなる進化を遂げようとしている。

途切れなかったベンチからの声がコート上の力に

大会最終日の3位決定戦、日本は再びイギリスと対戦した。イギリスは、今年5月のフォーネーションズカップでは、オーストラリア、日本、アメリカと世界トップ3が出場した中で優勝に輝いている。飛躍的に成長を遂げているチームとして、今大会でも“台風の目”として注目されていた。

準決勝でアメリカに敗れ、決勝進出こそ逃したイギリスだが、今大会覇者のアメリカに対し、わずか1点差での惜敗と十分に強さを示した。そのイギリスとの最終戦、“ケビンJAPAN”が見せたのは、チームワークだった。

特筆すべきは、第4ピリオドの最終局面だ。残り16秒で日本がトライを決め、これで54-49。日本の勝利は確実だった。しかし、ここからの16秒間、日本は最後の力を振り絞り、イギリスのラストトライを防いだ。

試合終了のブザーが鳴った瞬間、キャプテンの池選手はガッツポーズし、満面の笑顔でチームメイトと抱き合った。

「金メダルを失った気持ちというのは忘れてはいけない、これからの自分たちのエネルギー。それでも強豪イギリスに2度勝ったというところは、明らかにチーム力が上がった証拠。ベンチメンバーも含めて、12人全員が仕事をしたからこその銅メダルだと思います」と池選手。キャプテンが特にチームワークを感じたのは、最初から最後まで途切れることのなかったベンチからの声だった。

「相手に抜かれた場面で、『あぁ、抜かれてしまった』と思って次のオフェンスに切り替えようと思った瞬間、ベンチから『ハードワーク!』という声が聞こえてきたんです。それですぐに全力で守るべきキーエリアまで戻りました。そしたらターンオーバーが取れた。これはチーム全員で取れたものだったと思います」

このチームワークは、選手一人一人の成長によるものだったとキャプテンは言う。特に、昨年の世界選手権メンバーでない新戦力の選手たちの変化は顕著だった。

「みんな感受性が強く、情に厚い選手ばかり。決して派手ではなく、実はふだんは静かな選手たちなんです。そんな彼らが自分の殻を破って、チームに貢献しようと、コートの仲間に声を届けようとしてくれた。その気持ちが全員を一つにしたのだと思います」

ケビンHCは、開幕前のインタビューでこう語っていた。

「お互いに信頼関係を持ち、何かネガティブなことが起きても、それをカバーして支えてくれる選手がいるか否かでは大きな違い。各国の力が拮抗した中で勝つには、チームワークが強いことが絶対条件になると私は考えている」

指揮官の期待を裏切ることなく、チームワークをさらに高めた“ケビンJAPAN”。それこそが、今大会の最大の収穫であり、東京パラリンピックでの金メダルに突き進む大きな力になるはずだ。

COLUMN ライバル国のエースに直撃インタビュー!

<アメリカ(金メダル)> チャック・アオキ選手
「お互いに認め合い、信じ合うチームへの変貌が優勝に」

今大会、決勝で世界ランキング1位のオーストラリアに快勝して優勝したアメリカ。3位に終わった昨年の世界選手権後、チームを見直したことがチームの成長につながった。エースとして優勝に貢献したチャック・アオキ選手はこう語る。「今回の優勝という結果を見ても、お互いに認め合い、信じ合い、ポジティブに目標に向かっていくチームになったと感じている」。一方、2020年東京パラリンピックに向けては「オーストラリアはとても強いし、日本と対戦するにも、もっとやるべきことがある。これからトレーニングをもっとハードにしていきたい」と語るアオキ選手。2008年北京以来、3大会ぶりのパラリンピック金メダルを目指し、さらに成長した姿で東京へカムバックするつもりだ。

<オーストラリア(銀メダル)> ライリー・バット選手
「さらにハードワークしてくるはず」と日本を警戒

2012年ロンドン、2016年リオデジャネイロと2大会連続でパラリンピック金メダルに輝き、現在世界ランキング1位に君臨するオーストラリア。昨年からは日本とは勝ったり負けたりの“因縁のライバル”でもある。今大会も準決勝で対戦し、わずか1点差での激戦だった。パワーとスピードを兼ね備えた世界最強プレーヤーのライリー・バット選手は、日本に対して「スピードも速く、タフな素晴らしいチーム。ここ10年で、すごく鍛え上げられてきたと感じている。来年に向けてさらにハードワークしてくるはず」と警戒する。その一方で、「ぜひ、東京パラリンピックでは決勝で対戦したい」と語り、昨年の世界選手権決勝の“雪辱”を果たそうと意気込みを見せた。

<イギリス(銀メダル)> ジム・ロバーツ選手
パスワークがうまい日本はアメリカ以上に手強い

今年5月のフォーネーションズカップ覇者のイギリスは、成長著しいチームとして注目だ。今大会は表彰台に届かなかったが、準決勝では優勝したアメリカに1点差まで迫った。3連覇を達成した今年8月のヨーロッパ選手権でMVPに輝いたジム・ロバーツ選手は「全員が試合出場できる層の暑さが強み」と語る。一方、予選、準決勝で2度対戦した日本に対し「パスワークがうまく、ボールを奪うことが難しいので、アメリカ以上にやりにくい」と語り、印象に残った選手の一人に乗松聖矢選手をあげた。「彼にプレッシャーをかけたと思っていても、するっと抜けられてしまったり、パスを回されたりということもあって、こちらがイライラしてしまうほど素晴らしいプレー」と絶賛。観客の声援が飛び交う会場の雰囲気も「とても楽しめた」と語り、「来年もこれだけの応援をしてもらえるなら、自分たちもぜひ最高のプレーを見せたい」と1年後の抱負を語った。

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