及川JAPAN「個の力」を超える「チームの和」で史上初のメダル獲得へ

「闘う集団」に必要な“競争心”と“納得感”

2008年北京パラリンピックでメダル・ゲームに導き、表彰台まであと一歩というところまで女子日本代表を押し上げたのが岩佐HCだ。東京では、それ以来となる女子日本代表の指揮官を務める。
その岩佐HCが今、代表に求めているものとして、開口一番に語ったのは「闘争心」だ。
「目指しているのは、全員が強い気持ちを持った“闘う集団”。メンバー12人誰がコートに出ても強い姿を見せることができ、そしてスタッフも含めて全員が同じ目標の上に一丸となっていけるチームで世界に挑みたいと思っています」。

切磋琢磨し、共に同じ目標に向かって進み続ける「闘う集団」。そのために必要なことの一つが、「コート上の選手とベンチメンバーとの気持ちの結びつき」だと岩佐HCは考える。
それは、実体験によるところが大きいという。

大学までバスケットボール部に所属し、まさに“バスケ一筋”の青春時代を送ってきた岩佐HC。常に第一線で活躍できたわけではなかったが、そんな時も決して腐ることはなかったという。
「もちろん、試合に出たい、そして試合に出たらシュートを決めてみせるという負けん気の強さや競争心はあったし、それは必要です。でも、その半面、『コートに出ている選手は、普段の練習から努力しているから選ばれている』という納得感があった。自分の出番を待ちながらも、純粋な気持ちでチームを応援できたし、自分も更に努力しようと思えました」

一方で、メンバー12人誰がコートに出ても強い姿を見せるためには、それぞれが強みを持つことも大事だと岩佐HCは言う。
「私は、どんな時も積極的にシュートを狙うことを意識してコートに立っていました。なかなか決められなくて苦しんだ時期もありましたが、それが自分の最大の強みだし、役割だと信じていました。そういう強い気持ちを、日本代表の選手たちにも持ってもらいたい。『ここだけは絶対に誰にも負けない』というものをそれぞれがコートで発揮してこそ、強いチームになるからです」

車いすバスケには、コート上の5人の持ち点が合計14点以内でなければならないという特有のルールがある。そのため、障がいの程度が異なる「ハイポインター」「ミドルポインター」「ローポインター」をどう組み合わせていくかが采配のカギを握る。だからこそ、チームとしての強みのバリエーションと、誰が出ても、どんな組み合わせでもチームとして変わらない力が必要となる。

“異なるタイプ”の2人が生み出す化学反応

岩佐HCが「自分のないものを持っている指導者なので、非常に期待しているし、心強く思っている」と語るのが、山﨑ACの存在だ。

もともと“考えて何かを生み出す”ことが好きだという山﨑AC。そんな山﨑ACが目指すのは“日本一のAC”だ。

「HCがどういう方向に進もうと思っているのかをいち早くキャッチして、そのためにはどうすればいいのかを考え、選手やスタッフとコミュニケーションをとりながら、チームがその方向に動ける体制を整える。その道づくりは、ACの役割だと思うんですね。それが面白くて仕方ないんです。今はまだまだ力不足ですが、日本一のACになるのが昔からの目標なんです」

その山﨑ACがまず、選手たちに求めているのが「岩佐HCがやろうとしているバスケを理解する力」だという。「これなくしては何も始まらない」と語り、そのために今、養おうとしているのが“バスケット脳”だ。

「ただがむしゃらにやるだけでは、世界には勝てません。何が大事かといえば、自分自身や自チームの強みや特徴を把握し、そして相手チームの強みと弱みを把握すること。そのうえで、岩佐HCがどういうバスケをしようとしているのか理解することが重要です。そうすれば、試合の中で、一つ、二つ先を予測することができる。そういう力を養っていけるようなサポートをしたいと考えています」

奇しくも同じ「1月生まれのやぎ座でB型」と共通点も多い岩佐HCと山﨑ACだが、性格や考え方はまったく異なる。しかし、「だからこそいい」と2人は笑い合う。

「山﨑ACには、どんどん意見を言ってもらって、どんどん新しいものを取り入れてもらおうと思っています。時には意見がぶつかるかもしれませんが、だからこそ生まれるものがあるんです」と岩佐HC。山﨑ACも「関西人なので(笑)、臆することなく、どんどん意見を言わせていただこうかなと。でも、最後に判断するのは岩佐HCです。あくまでも私はサポート役。岩佐HCがやろうとしているバスケを体現するために、自分ができることはすべてやりたいと思っています」

2人に共通しているのは「向かうゴール(目標)さえ同じであれば、それまでの過程にはいろいろな方法があって正解は一つではない」ということ。2人による化学反応が、チーム強化を押し上げていく。

どこにも負けないトランジションを軸に世界に挑む

では、日本の強みとは何なのか。この問いに迷わず岩佐HCが口にしたのが「スピード」だ。

「高さがない日本にとって、スピードで世界を上回ることは必須条件。攻守の切り替えの速さが重要です。特に“アーリー・オフェンス”で一つでも多くオフェンスの回数を増やすことで勝機を生み出したいと思っています」

相手の守備が整わないうちに、シュートへと持って行くことが第一のカギを握る“アーリー・オフェンス”。それに加えて、シュートチャンスに高確率に決める力を身につけることが重視されている。

一方、守備面では、“引き出し”を増やしつつある。
「これまでは高さのある相手に対して、ゴールに近付けさせないことを重視して小さく守ることに重きを置いてきました。それと、日本の機敏さを活かしたオールコートでのプレスディフェンス。しかし、それだけではなく、守備のラインを上げて、積極的にボールプレッシャーにいき、相手のターンオーバーを誘うような攻撃的ディフェンスにも力を入れています」

しつこく粘り強い守備から、ボールを奪った瞬間に素早くゴールに向かうスピード力においては、どこにも負けるつもりはない。

そして、もう一つある。
「2度のパラリンピック、そして昨年の世界選手権と出場していないのは、確かに大きい。でも、だからこそ選手たちは“勝ち”に飢えている。東京では、それをパワーに変えることができると思っています」と岩佐HCは語る。

8月29日に開幕する「三菱電機WORLD CHALLENGE CUP 2019」では、オーストラリアとの親善試合が組まれている。3カ月後のアジア・オセアニアチャンピオンシップス(AOZ)の前哨戦として注目の戦いだ。

勝利への飢えを、闘争心へ――1年後の東京では、3大会ぶりに強い女子日本代表の姿を見せる。

COLUMN
「世界をけん引する欧州勢と各国が警戒強める中国の存在」

現在、女子の車いすバスケ界でトップに君臨しているのが、オランダだ。リオパラリンピック以降、着実に力をつけてきたオランダは、昨年の世界選手権で優勝。さらに今年6月、東京パラリンピックの切符をかけて行われたヨーロッパ選手権も制した。高さとスピード、シュート力を兼ね備え、頭一つ抜けた存在だ。
このオランダに続くのが、世界選手権、ヨーロッパ選手権で準優勝のイギリス。そして、いずれも3位となったドイツが続く。
一方、世界が最も警戒心を強めているのが中国の存在だ。昨年の世界選手権で4位を獲得した中国。アジアでは2015年アジア・オセアニアチャンピオンシップス以降、不敗神話が続いている。だが、公式戦以外は姿を現さないだけに、最も情報が少なく、だからこその怖さがある。
この4カ国に続くのがアメリカ、カナダ、オーストラリアだが、9人のシニア代表を擁して今年5月の女子U25世界選手権で優勝したアメリカは成長著しく、あと1年で一気に4強に食い込むことも十分に考えられる。
こうした中、日本は親善試合ながら、オランダ、イギリスとも互角に渡り合い、ドイツには勝利を挙げている。経験値では世界との差は大きく開いているものの、強豪国とも勝負できるレベルにはあると岩佐HCは見ている。
最大の目標は、今年のAOZで中国、オーストラリアを倒して優勝し、“アジア・オセアニア女王”として2020を迎えることだ。

PROFILE

岩佐 義明(いわさ よしあき)

1958年1月6日 宮城県生まれ。
大学までバスケットボール部に所属しプレーヤーとして活躍、卒業後、宮城県障害者総合体育館に勤務。その傍ら、1989年から車いすバスケットボールのクラブチーム「宮城クラブ」(現・宮城MAXの前身。2001年に改名)を指導する。2017年まで宮城MAXのヘッドコーチを務め、全国トップのチームへと押し上げた。現在日本選手権(18年より天皇杯を下賜)10連覇中の宮城MAXの礎を築く。2008年北京パラリンピックでは女子日本代表のHCを務め、メダルまであと一歩と迫る4位に導いた。12年ロンドンパラリンピックでは男子日本代表HCを務める。18年1月に再び女子日本代表HCに就任した。

山﨑 沢香(やまさき さやか)

1973年1月5日、兵庫県生まれ。
小学校でミニバスケットボールを始め、中学、高校とバスケットボール部に所属。大学では男子バスケ部のマネジャーを務めた。大学卒業後に知人の誘いで初めて練習を見に行ったことを機に指導者として携わるようになる。LAKE SHIGA BBCなどクラブチームのHCを経て、2017年に男子U23日本代表ACとなる。18年には女子U25日本代表のHCに就任し、今年5月に開催された女子U25世界選手権では過去最高の4位に導いた。同年4月より女子日本代表ACに就任。現在は、女子U25日本代表HCと女子日本代表ACを兼務している。

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