理由ある「こだわり」
3度目の出場を目指している2020年東京パラリンピックまで、あと2年。
眞田卓選手は今、自らに新たな可能性を感じている。
「今、理想に近いテニスができています」と眞田選手。その理由のひとつは、競技用車いすのモデルチェンジだ。これまでもっと自らの体をより生かすことのできる車いすを欲してきた。それが今、実現しつつある。
昨年5月からこだわりをもって試行錯誤してきた車いすには、シートの部分に「ニーグリップ」という突起部分が付けられている。バイクにまたがるようにしてニーグリップを両脚の太腿で挟んで座ることで、手を使わずとも、太腿の力で容易に車いすを操作することができるようにしたのだ。
また、ニーグリップがあることで、これまでそろえていた両脚がワイドスタンスへと変わり、さらに内転筋を使うことで、ショットの際には、より下半身からのパワーを載せることができるという利点もある。これは、もともとバイク好きである眞田選手ならではの発想から生まれたものだ。
もちろん、頭で考えていたものが、実際にはどんな効果を生み出すかは、やってみなければわからなかった。
軽量化が常識とされる中、世界に前例のない「ニーグリップ」の装着が、果たして車いすの操作性を良くするのかどうか、その保証はどこにもなかった。
しかし、眞田選手には迷いは全くなかったという。「人に『無理だ』と言われても、僕はやってみないと納得しないタイプ。とにかく、まずは自分でやってみて、その結果を見てから判断したいんです」
実際、「ニーグリップ」を付けることによって、どんな効果が表れたのか。「車いすのターンの操作性や、前傾姿勢から体を起こす動作など、これまでの腕の力よりも脚からの力での方が、より速くよりスムーズにできるということがわかりました。また、ワイドスタンスにしたことによって、ストロークの威力も上がりましたし、より高い打点でボールをバランスよくヒットさせることができるようになったんです」
ほぼ完成の形となったのが昨年11月。
その後、眞田選手は11月のプラハカップ(チェコ)、そして12月の日本マスターズで優勝。
さらに日本代表として出場した今年5月のワールドチームカップでは、全試合に勝利し、日本の優勝に大きく貢献した。
しかも、車いすはまだ完成形ではなく、改良の余地があるという。
その分、眞田選手のプレーにも伸びしろがある。
今年の目標は、10月のアジアパラ競技大会で4年前はあと一歩のところで届かなかった金メダルを獲得すること。
そしてグランドスラムにストレートインすることのできる世界ランキング7位以内に入り、「グランドスラムデビュー」を果たすことだ。
こだわり抜いた理想のテニスで、2020年東京パラリンピックに向けた階段を、一つ一つ昇っていく。
理由ある「こだわり」
眞田卓選手が自己紹介をする際、必ず言うことがある。
「僕は極度の人見知りなんです」
本人いわく、
「初めての人にはすぐに“話しかけてこないでオーラ”を出してしまう」のだという。
しかし、彼が「人見知り」と聞いて驚く人は少なくない。
車いすテニスプレーヤー「眞田卓」は人当たりが良く、明朗そのものだからだ。
実は、そこには理由がある。
「テニス関係や職場で出会う人たちというのは、ある程度、長く付き合う人たちが多いと思うんです。そうであれば、コミュニケーションを図ることは大事だと思うんですね。だから僕も、積極的に話しかけたりして努力しようとするのですが……」
そこには「やることにはすべて意味を持たせたい」というこだわりが見え隠れする。
そのこだわりは、こんなところにも表れている。
カラーだ。
実は、眞田選手が使用している義足、競技用車いす、ラケットは、
すべて「赤・白・黒」で統一されている。
「なんでも明確にしたいという性格ということもあって、“白黒はっきりさせる”ということから、色でも白と黒って好きなんですよね。それと赤はやっぱりやる気が出てくる。コート上に立った時に、その3色が自分のモチベーションが高まる色ということで、赤・白・黒を僕のテーマカラーにしているんです」
特に大切にしているのが「赤」だ。
“情熱”のカラーでもある「赤」は、眞田選手にとって戦うためのアイテムの一つ。
そのため、ふだんの服装では赤いものを身に付けることはなく、
“テニスプレーヤー”としてコート上に立った時だけの特別なものというこだわりを持つ。
赤を身に付けた時、眞田選手の“戦闘モード”のスイッチが入るのだ。
細部にまでわたってほどこされる、理由に基づいた「こだわり」。
そこから積み上げてきた「理想のテニス」に今、ようやくたどり着きつつある。