【#AFTER TOKYO2020】辻 沙絵 選手(陸上)AFTER TALK編

【#AFTER TOKYO2020】辻 沙絵 選手(陸上)AFTER TALK編

パラリンピック史上初めて無観客で開催された東京2020パラリンピック。だからこそ、見えたもの、感じられたものがあったと辻選手は言います。選手たちも行動が制限されるなかで試合が行われることになったあの特別な大会は辻選手自身にどんなふうに映り、その先の未来につながっていっているのか。あれから約1年、【#AFTERTOKYO2020】辻沙絵選手のAFTER TALK編です。

  1. Topic 01 自国開催がもたらした安心感と集中力

    • 辻選手にとって、2016年のリオデジャネイロ大会に続いて2回目となったパラリンピックの舞台。そこは自分自身が「自国のアスリートなんだ」ということを再認識させてくれた場所でもあった。

      「海外の大会でも、ボランティアの人たちはみんな温かく迎えてくれるのですが、でもやっぱり自国開催は違いました。どこに行ってもボランティアの方一人ひとりが“頑張ってください!”“応援しています!”と聞きなれた日本語で迎えてくださり、レース後には“お疲れさまでした!”と拍手を送ってくれました。ボランティアさんの笑顔にどれだけ元気をいただいたかわかりません。と同時に、自分をアスリートとして応援してくださっていることが、すごく嬉しかったです。こちらこそ“ありがとうございます”とお礼を言いたい気持ちでした」

    • 運営面でも、日本ならではの安心感があった。レースの前にはスタートの時間に合わせて、アップなどのタイムスケジュールを組む。しかし海外の大会の場合、予定されていたスタート時間が遅延することは珍しくない。そのたびに、アスリートは準備する順番やペースを変更するという対応をする必要が出てくる。しかし、東京大会でそうしたハプニングは皆無だった。

      「ほとんどのプログラムが予定通りに進行されていったので、私たちアスリートは、目の前のレースに力を発揮することだけに集中することができました。これほどありがたいことはありませんでした」

  2. Topic 02 大事にしていきたい“継続性”

    • 一つ残念だったのは、無観客での開催だったことだ。これまでお世話になってきた人、まだパラリンピック競技を見たことがない人など、たくさんの人たちに生で競技を見てもらい、パラスポーツやパラアスリートのイメージを変えるきっかけにしたいと思っていただけに、人がまばらな観客席の光景は、やはり“残念”のひと言に尽きた。

      それでも予想以上に反響が大きかったことに、驚きと嬉しさが募った。

      「東京大会が終わった後に、家族や友人はもちろん、それ以外の人たちからも“パラリンピック、良かったよね”“すごく素晴らしかったよ”というような言葉を本当にたくさんいただいたんです。陸上だけでなく、ほかの競技の選手の名前が出てきたり。自国開催の意義って、こういうことなんだなと肌で知ることができたように思います」

      多くの温かい言葉のなかで、辻選手が最も心に残ったひと言があった。

      「これからもずっと、継続して応援していきたいと思います」

      “これからもずっと、継続して”その言葉に、辻選手はある目標がより明確になっていくように感じた。2024年のパリパラリンピックに出場することだ。

      「実は、世界選手権が行われた2019年頃は、東京大会で競技人生を終えようかなとも思っていました。でも、大会が延期され、自分を見つめ直し、練習に対して自主的に考えて取り組むようになってから記録が伸び始めて、一つ一つ積み重ねていく過程が面白くなりました。レースを終えた時“このまま終わったらもったいない”と思ったんです。陸上選手として、私の競技人生はここからのような気がします。だから、これからの私も継続して応援していただけるようにがんばりたいと思いました」

  3. Topic 03 アスリートから届けたい子どもたちの可能性

    • いつか現役を終えた後には、「陸上にとどまらず、さまざまな形でスポーツ界やアスリートのサポートをしたい」という辻選手。

      現役で選手活動をする今も自分にできるサポートを続けている。SNSでつながった障害のある子どもや、その家族とコミュニケーションを図り、自身の経験を通して相談に乗ったり、アドバイスをしたりしている。そしてそれは、スポーツに限ったことではない。

      「私と同じように片腕に障害があるお子さんがいるご家族に、りんごの皮の向き方や、髪の毛の結び方など、私の日常生活でのやり方をお見せしたことがあります。私の両親や私自身もそうでしたが、生活すること自体がわからないことだらけ。なので、少しでも具体例があると助かるんです。でも、逆に私の方が、親御さんやお子さんから“そうやってやってるんだ”と学んだりします(笑)小さなアクションかもしれませんが、少しずつ輪が広がってきているなと感じています」

    • また、陸上を始めたいという子どもたちからのメッセージも増えていると言い、今後はそうした子どもたちへのサポートにも注力していきたいそう。その一つとして、辻選手が試みていることがある。筋肉を動かそうとするときに生じる微弱な電位(筋電位)を活用して指を動かすことができる「筋電義手」をメーカーから借りて、実際に使用しその情報を届けることだ。

      「筋電義手はとても高額で、すぐに購入できるものではないのですが、それでも私と同じように手に障害がある子どもたちにとって可能性を広げるものを、アスリートである自分が情報をお届けすることもいいのかなと。それが子どもたちの将来の選択肢になればと思っています」

      東京2020パラリンピックをはじめ、辻選手自身が大きな国際大会の舞台に出場し、注目してくれる人たちが増えたことで、さまざまなコミュニケーションが生まれ、輪が広がってきていると実感している。その輪を、今後さらに広げていき、この先も継続していきたい、そんな風に辻選手は言う。

大会概要

  • information-2

『東京2020パラリンピック競技大会』
 Tokyo 2020 Paralympic Games

開催期間:2021年8月24日(火)~9月5日(日)
競技数 :22競技
開催地:日本・東京
運営主体:国際パラリンピック委員会(IPC)
     東京2020オリンピック・パラリンピック組織委員会
競技数:22競技

陸上競技は8月25日から競技がスタート、最終日の9月5日まで熱戦が続いた。
会場は東京・新国立競技場とマラソンが東京の街なかで実施。

TOP