MWCCイラン戦で刻み込まれた進化と和

不足していた“残り5秒”でのプレー

「もう、“いい経験”で終わらせてはいけない」
「何よりも勝ちに飢えているチーム」

東京2020パラリンピックを1年前にして、女子日本代表からはそんな声が多く聞かれてきた。

今年2月の大阪カップでは、昨年の世界選手権で優勝したオランダ、準優勝のイギリスを相手に、いずれの試合でも前半は主導権を握り、リードを奪った日本。だが、後半に入って逆転を許し、あと一歩のところで勝利を逃した。

それは、5月のドイツ遠征でも同じだった。1カ月後に東京パラリンピックのヨーロッパ予選を控え、フルメンバーで臨む強豪ドイツ(世界選手権3位)に対し、日本はわずか5点差で勝利を逃していた。

キャプテンの藤井郁美選手は、こんなふうに語っている。
「みんな力がついてきていることは感じているし、手応えも十分にある。でも、勝ち切ることができていないのが何よりの課題。とにかく一度、最後の最後に“勝ち切る”試合をしなければいけないと思っています」

最後の最後に、勝って終わる――これがMWCCの最大の使命でもあった。その使命を果たすべく、チームとして最大の課題とされたのが、“残り5秒”でのプレーだ。

藤井選手は、こうも説明する。

「5月のドイツ遠征で課題に挙げられたのは、“残り5秒”でのプレー。一生懸命に守って守って、頑張ってディフェンスをしていたのに、ショットクロック残り5秒でシュートを決められたり。あるいはブザーが鳴るぎりぎりまでしっかりと狙ってシュートを打たなければいけないところをあわててシュートを打ってしまったり。そういうところでの差が得点に大きく響いているということで、オフェンスもディフェンスも、残り5秒で質の高いプレーをするようなトレーニングをしています」

層の厚さを示した“日替わりヒロイン”

そんななかで臨んだMWCC初戦、思わぬ苦戦を強いられ、日本は出鼻をくじかれた。高さもシュート力もチームNo.1であるエースのアンバー・メリット選手を乗せてしまったことで若手を中心としたチーム作りに舵を切り始めたばかりの若いオーストラリアを勢いづかせ、最後まで流れを手繰り寄せることができなかったのだ。日本は、56-67とまさかの2ケタ差での敗戦を喫した。

しかし、これが選手たちの気持ちに火をつけた。同じ悔しさを味わわないためにも、勝ちに執着し、こだわる姿勢をコート上で出していこうと全員で誓い合い、第2戦に臨んだという岩佐JAPAN。そこには、まさに勝利への飢えをエネルギーに代えた「闘う集団」の姿があった。

ハイポインターとローポインターが対面するかたちのミスマッチのシーンを減らし、オーストラリアの“ビッグマン”には藤井選手、網本麻里選手、北田千尋選手などのハイポインターが素早くジャンプアップし、徹底的にインサイドに入れさせないディフェンスをしいた。

この日本の強固なディフェンスに、オーストラリアは攻め苦しんだ。初戦で31得点を叩き出したエースのメリット選手は、この日は16得点と約半数に減少。これがそのままチームに影響し、全体でも67得点から38得点と激減した。

一方、日本は現在のチームの強さを表す結果を生み出した。それはエース一人の得点でチームの勝敗が左右されるオーストラリアとは異なり、トップスコアラーが日替わりに現れる、選手層の厚さだ。初戦、最多得点をマークしたのは、24得点の北田選手だった。そして第2戦でトップスコアの活躍でチームを勝利に導いたのは、28得点の藤井選手だった。

大会前、岩佐HCはこう語っている。
「目指しているのは、全員が強い気持ちを持った“闘う集団”。誰がコートに出ても強い姿を見せることができるチームです」

“日替わり”でのヒロインの登場は、そんなチームの強い姿勢が表れていた。

キャプテン自らが示した勝利への執着心

迎えた最終戦。1勝1敗で迎えた中、勝利で終えたいという両チームの強い気持ちがそのままコート上で示されたような試合だった。

最初に流れを引き寄せたのは、オーストラリア。第1クォーター、U25世代の若いセンター、アナベル・リンドセイ選手が次々と得点し、20-10と日本にダブルスコアの差をつけた。しかし、第2クォーターでは逆に日本が追い上げ、その差を26-29と3点差とすると、それ以降は両者ともに一歩も譲らない激戦が繰り広げられた。

迎えた最終クォーター、日本が1点ビハインドの中、残り時間19秒で藤井選手がフリースローを2本決め、57-56と日本がリードを奪った。しかし、直後にリンドセイ選手のミドルシュートが決まり、日本は再び1点ビハインドを負った。

電光掲示板に示されていたのは、残り時間「4秒」。日本は最後のタイムアウトをとった。岩佐HCはこの時に出した指示について、後にこう打ち明けている。

「おそらく(藤井)郁美のところにプレッシャーが来るだろうと。なので、もう一人のハイポインターである(北田)千尋のアウトサイドのシュートでいこうと。ただ、もし来なければ、もちろん郁美が積極的にいけ、と指示を出しました」。

試合が再開され、ボールは藤井選手に託された。意外にも、相手は厳しくプレッシャーをかけてはこなかった。チームファウルが5つだったオーストラリアは、ファウルをして、再びフリースローになるよりもゴールに遠いアウトサイドでシュートを打たせたほうがいいと踏んだのだろう。

そこで藤井選手は素早くシュート体勢に入った。「ほとんど何も考えずに体が反応したままに打った」と後に語った通り、それはまさに一瞬の出来事だった。

彼女の手から“狙って”放たれたボールは、試合終了のブザーとほぼ同時に、ネットに吸い込まれていった。59―58。まさに、最後の最後までチームが勝利に執着した気持ちのこもったプレーが呼び起こした勝利。岩佐JAPANが求めてきた勝ち方そのものだった。

オーストラリアに2勝1敗と勝ち越して大会を終えたチームには、次に向かうための一筋の光が見えたに違いない。その光の先にあるのが、11月29日に開幕するアジアオセアニアチャンピオンシップス(AOC)だ。

最大のライバルとなるのが、中国とオーストラリア。いずれも高さのある“ビッグマン”擁する強豪だ。両チームに勝つためには、やはり“全員バスケ”で立ち向かわなければならないと指揮官は見ている。

「AOCで勝つためには、ベンチメンバーからの底上げがさらに必要。固定されたメンバーではなく、12人全員、誰がコートに出ても同じくらいの強さをもったチームにならなければいけないと考えています。どこまでチームの底上げができるかどうかが、非常に重要です」

誰一人欠けることなく、12人全員が同じ方向を歩み、一人一人が強さを発揮することができるか。AOCでの勝利のカギはそこにある。

COLUMN ライバル国のエースに直撃インタビュー!

<オーストラリア> アンバー・メリット選手
「日本がこれほどまでに強くなるなんて予想できなかった」

若手を多く起用し、世代交代をはかりつつ東京パラリンピックを目指している女子オーストラリア代表。日本とは毎年、何度も対戦しており、お互いに知り尽くしている。だからこそ、確実に日本が強化されてきていることを最も知っている相手とも言える。チーム随一の高さとシュート力を持つエースのアンバー・メリット選手は日本の印象についてこう語っている。「日本は今、どんどんレベルが上がってきている。正直、こんなにも強くなるなんて少し前は予想できなかった」。だが、AOCでは負けるつもりはもちろんない。オーストラリアにはいくつもの充実したトレーニングセンターがあり、選手たちは各州で練習に取り組むことができるという。さらに代表合宿でチーム強化を図ったうえで、AOCに乗り込むつもりだ。

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