一致団結で「勝利への飢え」をプラスの力に

アジア女王の牙城を崩しかけた中国戦

AOCでの最大のライバルは、中国とオーストラリア。両チームともに、日本にはない世界レベルの高さがある強豪だ。その2カ国に勝つことが世界に近付く第一歩となる。特に2018年世界選手権で4強入りした中国への勝利は、00年シドニー大会以来となるパラリンピックでの銅メダル獲得を目指している日本にとっては大きな意味を持っていた。

今大会は2つのディビジョンに分かれて予選リーグが行われ、ディビジョン1では日本、中国、オーストラリアの3カ国で2試合ずつの総当たり戦で順位を決定。ディビジョン2の上位1カ国を合わせた4カ国で決勝トーナメントが行われた。

その初戦、日本はオーストラリアとの第1戦で逆転負けを喫し、黒星スタートとなった。

迎えた中国との第1戦、第1Qで7-14と早くもダブルスコアとされた日本は、前半を終えて14-26と2ケタ差をつけられていた。これ以上離されれば、中国が勢いに乗ってしまう。第3Qが試合のカギを握っていた。

ここで本領を発揮したのが、チームで数少ないパラリンピック経験者の一人、網本麻里選手だ。得点源として活躍を期待されていた網本選手だったが、実は大会に入って思うように力を出し切れずにいた。前日のオーストラリア戦でのフィールドゴール成功率は23.1%。この日も前半は20分間フル出場しながら無得点と、放った6本のシュートはすべてリングに嫌われていた。

ところが、第3Qで10得点中9得点を一人で叩き出すと、第4Qも高確率にシュートを決め、チーム最多の17得点をマーク。これは両チーム合わせても最多の20得点を叩き出した中国のチャン・シュウメイ選手に次ぐ2番目の数字を誇った。

網本選手の活躍で勢いづいた日本に、中国は確かに翻弄されていた。第4Qの残り3分半、中国は一度も得点を奪うことができなかったのだ。一方の日本は網本選手のこの試合4本目となる3Pをはじめ、8得点を挙げた。結局40-48で負けはしたものの、世界の4強を、もう少しのところまで追い詰めたことは事実。35-65とほぼダブルスコアでの30点差で敗れた1年前のアジアパラ競技大会とはまるで違う日本の強さが示された。

大会初スタメンの2人がもたらした勢い

その2日後、日本はオーストラリアとの第2戦に臨んだ。オーストラリアは世界選手権以降、若手を多く起用し、世代交代を図ってきた。指揮官も替わり、チーム作りにおいては道半ばという印象が強い。とはいえ、何人もの“超ビッグマン”を擁し、世界随一の高さのあるチームであることに変わりはない。簡単にミスマッチの状況を作られ、優位に試合を進めようとしてくることは明らかだった。

日本はその高さに対して速さで対抗した。攻守の切り替えを速くしたトランジションバスケを遂行。特に「トランジションバスケの申し子」と岩佐義明HCからも期待されていたチーム最年少、柳本あまね選手が躍動した。

今大会初めてスターティングメンバーに抜擢された柳本選手。スタートから彼女の気迫のこもったプレーが、チームにも乗り移り、オーストラリアの動きを封じた。攻守の切り替えの速いトランジションバスケで、“超ビッグマン”たちをインサイドから締め出し、思うようなプレーをさせなかった。

そして、この試合で得点源となったのが、北田千尋選手だった。柳本選手と同じく今大会初スタメンとなった北田選手は、指揮官の期待に応えるかのように、次々とシュートを決めていった。第1Qでは75%、第2Qも70%というフィールドゴール成功率でチームに勢いをもたらした。

日本は29ー23と今大会初めて前半リードで試合を折り返した。しかし、後半に逆転を許し、55-58とわずか3点差での惜敗。あと一歩のところで、勝利を逃した。

翌日、中国との第2戦にも敗れた日本は、予選は全敗となった。オーストラリアとの準決勝では25-18とリードをして試合を折り返したが、ここでも後半に逆転を許し、37-49という悔しい結果に終わった。

東京でメダル獲得に向けて出た「答え」

3位決定戦ではタイに攻守で圧倒し、銅メダルを獲得した。しかし、チームに笑顔は一つもなかった。目指していたものとは、まったく違う場所だったにほかならない。

「ディフェンスは悪くはなかった。ただ、相手が着実にシュートを決めて勢いに乗り始めたところでの自分たちのオフェンス力。これが最大の課題だったと思います」

この指揮官が示した総括こそが、チームの「現在地」であり、今後向かうべき「方向性」を表している。

今大会、日本は中国とオーストラリアに対して全試合で40点台、50点台というロースコアに抑えた。これは、日本のディフェンス力が十分に通用することを証明したと言っていい。これまで日本バスケの柱としてきた「ディフェンスから試合のリズムをつくる」という戦略は、今や確かな強みとなっている。

しかし、ディフェンス力だけでは勝つことはできない。今回は、それが証明された大会でもあった。岩佐HCが語るように、やはりオフェンス力に大きな課題がある。フィールドゴール成功率の平均を比較すると、それは明らかだ。中国との2試合では、日本が32.3%に対し、中国は41.5%。一方、オーストラリアとの3試合では、日本が32.3%に対し、オーストラリアは40.1%となっている。

高さで優位な相手は、日本よりもシュートチャンスがあり、本数は上回ることは珍しくない。つまり、日本は少ないチャンスに、いかに高確率でシュートを決めることができるかが重要となる。相手よりも正確なシュート技術を持たなければ、高さで上回る世界に勝つことはできない。

それは、今大会で浮彫となった「課題」でもあり、世界に通用するディフェンス力を持つことができたからこそたどり着いた「答え」でもある。

今、チームはさまざまな経験を糧に勝利まであと一歩のところまできている。17年まで前HCのもとで積み上げてきた挑戦によって力が養われ、そして気づきがあり、募らせてきた思いがチームにはあった。それを踏まえて、18年に現在の岩佐HCの体制となり、基礎から見直し、徐々にステップアップしてきたのが今のチームだ。

世界と勝負する準備はできている。あとは世界に勝つ準備を本番までにどう整えられるかだ。

「とにかく勝利に飢えているチームですから」
岩佐HCがしばしば口にする言葉だ。世界の中で、日本は最も「勝利に飢えたチーム」なのかもしれない。だが、さまざまな苦難を乗り越えてきた今の女子日本代表には、チームスローガンである「一致団結」で、プラスのエネルギーにする力があるはずだ。

COLUMN ライバル国のコーチに直撃インタビュー!

<中国> チェン・チー ヘッドコーチ
「尊敬に値する日本の最後まで諦めない精神」

2015年のAOCからアジアオセアニア女王の座に君臨し続け、2018年世界選手権では4強入りを果たした中国。東京パラリンピックでは初のメダル獲得を目指している。世界トップクラスの実力を持つチームに導いたチェン・チーコーチは「痛みなくして勝利なし」と言い、「パラリンピックでの勝利のために厳しいトレーニングを乗り越えていく」と、さらなる強化を図る考えを示した。そして日本に対しては「昨年のアジアパラのように大差がつかなかった。それほど良いトレーニングを積んできた証拠。結束力があり最後まで諦めない日本の精神は尊敬に値し、私たちが学ぶこともある」と日本の成長スピードに脅威を抱いている。

<オーストラリア> スティーブン・チャールトン ヘッドコーチ
「自国開催での日本の勢いに警戒」

2018年世界選手権後、若手を多く起用し、世代交代を図ってきたオーストラリア。チームを率いるのは、昨年のU25世界選手権で準優勝に導いたスティーブン・チャールトンHCだ。これまで何度も対戦してきた日本については「私たちがリードしていても、絶対に諦めないという良いメンタルを持ち続けていた。以前よりもさらにタフなチームとなっている日本は、もっと強くなるはず」と語った。さらに「(AOCの)3カ月前に日本で開催されたMWCC(三菱電機WORLD CHALLENGE CUP)の時は本当に勢いがあった」と述べ、自国開催となる東京パラリンピックでの日本に警戒心を示した。

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