東京2020パラリンピック競技大会で、2大会連続での銅メダルを獲得した車いすラグビー日本代表。予選リーグ、3位決定戦で世界ランキング1位のオーストラリアを2度も破り、表彰台に上がりました。その日本代表をキャプテン、エースとしてけん引したのが、池透暢選手です。自身としても2度目となった東京大会は、どんな舞台となったのでしょうか。休養を経て、2024年パリパラリンピック出場を目指すことを決意した池選手に改めて、インタビューしました。あれから約1年、【#AFTER TOKYO2020】池 透暢 選手のGAME REPORT編です。
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Topic 01 本番前に感じてしまった心の揺れ
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4カ国ずつ2つのグループに分かれて総当たりで行われた予選リーグ、日本はフランス、デンマーク、オーストラリアに無傷の3連勝を飾り、1位通過した。しかし、準決勝のイギリス戦で敗れ、最大の目標としてきた金メダル獲得には至らなかった。
実は、そのイギリス戦を前にして、池選手はこんなことを語っていた。
「日本はイギリスには2017年以降、ずっと勝ってきました。だからこそすごく怖くて不気味な感じがしているんです……。もともと個人のパフォーマンスが高い選手が多く、コロナ禍でもそれぞれの選手が個人練習をしっかりとやっていた様子はSNSで見ていました。実際、東京パラリンピックでの他国との試合を見ても、チームの調子の良さを感じていました」
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試合当日になると、不気味さはさらに拡大した。通常は、試合前に両チームはアップコートに来て、ウォーミングアップをする。ところがその日、アップコートにイギリスは姿を現さなかったのだ。そしてウォーミングアップを終えた日本が本番のメインコートへと行くと、そこにはすでにイギリスの姿があった。
イギリスの不可解な行動に、本来はあってはいけない心の揺れを感じた池選手は、「ダメだ、自分たちに集中しなければ」と思い直した。しかし、イギリスにはいつもとは違う鬼気迫る雰囲気が感じられ、不気味さは増すばかりだった。
「注意してかからないといけない」。池選手は怖さを感じながら緊張した面持ちで試合に臨んだ。
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Topic 02 たった一つのターンオーバーで変わった試合の流れ
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第1ピリオドの序盤、リードしたのは日本だった。4-2と点差を広げ、試合の主導権を握り始めていた。しかし自分たちのミスで同点とされ、結局10-11とビハインドを負った状態で第1ピリオドを終えた。
「大丈夫、大丈夫。ここからだ!」
池選手はチームメイトにそう声をかけながら、自分自身を鼓舞し続けた。しかし、一度相手に行ってしまった流れを引き戻すことはできなかった。その後もふだんでは考えられないようなミスが続いた日本は、リードを広げられ、46-55と完敗。金メダルへの道が、閉ざされた。
池選手は、試合を振り返ってこう語る。
「第1ピリオドが始まってわずか13秒で、相手にタイムアウトを取らせた時に、一瞬“この試合、絶対にいける”と思った自分がいました。そういう感情を持たずに、目の前のプレーに集中するのが自分の強みだったはずなのに勝ちを意識してしまったんです。それが、心の乱れにつながったのだと思います」
各チームの実力が拮抗し、紙一重で勝負がわからなくなるほどの厳しい勝負の世界。そこでは、わずか一瞬の気持ちの揺れも許されない。それが如実に表れた一戦となった。
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Topic 03 日本代表チームキャプテンとしてパリへ
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池選手は東京パラリンピック後、しばらくの間、イギリス戦の試合を見ることができずにいた。
「いつもなら試合の動画を見て振り返るのですが、イギリス戦はなかなかきちんと見ることができませんでした。その理由は自分でもよくわからなかったのですが、おそらくシンプルに見たくなかったのだと思います。ずっと目指してきた金メダルの道が閉ざされた試合でしたから……」
しかし半年が経った頃、気持ちの変化があったという。それは、2024年パリパラリンピックを目指すことを決めたからだった。
「パリに向けて進むと決めたので、ちゃんと見なくてはいけないと思いました。今度こそ金メダルを取るためには、通らなければいけない関門なのかなと」
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池選手がキャプテンを続投することが決まった日本代表は、今年6月に行われた2022カナダカップでは第3戦でイギリスと対戦し、64-50と快勝。
決勝では地元カナダに57-56で競り勝ち、優勝に輝くと同時に、史上初めて世界ランキング1位獲得という快挙を達成した。
2年後、パリ大会で金メダルを獲得するその日に向けて、勢いを加速させている日本代表。その中心に立つキャプテン池選手の姿から、今後も目が離せそうにない。
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大会概要
『東京2020パラリンピック競技大会』
Tokyo 2020 Paralympic Games
開催期間:2021年8月24日(火)~9月5日(日)
競技数 :22競技
開催地:日本・東京
運営主体:国際パラリンピック委員会(IPC)
東京2020オリンピック・パラリンピック組織委員会
競技数:22競技
陸上競技は8月25日から競技がスタート、最終日の9月5日まで熱戦が続いた。
会場は東京・新国立競技場とマラソンが東京の街なかで実施。