“自信”と“確信”をもたらした価値ある2つの大金星

イランの高さを封じた日本のトランジションバスケ

6カ国総当たりで行われた予選リーグ、地元タイに64-37で勝利を挙げ、快勝で初陣を飾った日本は、翌日、早くも大会最初のヤマ場を迎えた。相手は、アジア王者のイラン。公式戦では16年リオデジャネイロパラリンピックでの勝利を最後に、17年以降、公式戦では連敗を喫してきた。

そのイランに対し、日本は第1Q、得意のオールコートのプレスディフェンスで執拗にプレッシャーをかけて相手を翻弄し、攻撃へとつなげた。試合開始4分で11-2と主導権を握った日本は、その後さらに引き離した。36-22と2ケタ差で試合を折り返すと、後半に入ってもイランに付け入る隙を与えず、71-51と20点差で大勝した。

日本の強さを示していたのは、スコアだけではなかった。日本がイランを圧倒していたことを証明した数字がある。オフェンスリバウンドだ。

3カ月前の国際親善試合「三菱電機WORLD CHALLENGE CUP」での分析の結果、イランはたとえシュートを外しても、オフェンスリバウンドからのセカンドチャンスで得点を決めることによって勢いづく傾向があることが判明した。その対策として、効果を生み出すと考えられたのが、日本の最大の強みであるトランジションバスケの遂行だった。相手がシュートを外した際、ボックスアウトをして確実にボールを奪ったらすぐに攻めに転じることによって、イランにリバウンドボールを取ることよりも、ディフェンスに戻ることを強く意識させることが狙いだった。

その結果、イランのオフェンスリバウンドは日本の「9」を下回る「7」にとどまった。しかも第1、3Qでは「0」と完璧に封じている。だが、最も注目すべきは第2Qでの「2」という数字だ。第1、3Qはイランが苦手とするオールコートでのプレスディフェンスをしいたのに対し、ハーフコートに下がってのディフェンスをしいたのが第2Qだった。よりゴールに近いところで、高さで上回る相手と勝負をしなければならなかった中での「2」という数字は、まさにトランジションバスケがもたらした大きな成果と言えた。

大きな自信をもたらした39年ぶりの歴史的快挙

そして、もう一つのヤマ場とされたのが、予選リーグの最終戦となったオーストラリア戦だった。

オーストラリアと言えば、高さが武器のチームというイメージがあるが、現在の男子代表チームの主力は、アウトサイドからのシュートを得意とするプレーヤーを数多くそろえた布陣となっている。そんなオーストラリアは当初、スピーディな展開よりもハーフコートでシュートチャンスを作り、確実にミドルシュートを決めるというスタイルのバスケをするという印象が強かった。

ところが、同じく高さを武器としていないアメリカや日本を追いかけるようにして、ここ1,2年の間に攻守の切り替えの速さにも磨きをかけ、スピーディな展開のバスケが見られるようになっている。それが強さとなり、18年世界選手権では銅メダルを獲得した。

そのオーストラリアとの一戦は、予想通りトランジションバスケ同士の“ガチンコ勝負”となった。第1Qは16-17。第2Qは35-36。前半を終えて、オーストラリアがわずか1点リードと、まさに手に汗握る白熱した展開となった。

第3Qの後半、日本の守備の隙をついたカットインプレーでオーストラリアが連続得点を奪う。日本は47-53と6点のビハインドを負った。しかし、第4Qでじりじりと点差を詰め、残り1分を切ったところで61-61とついに同点とした。そして残り20秒、キャプテン豊島英からボールを託された藤本怜央がゴール下のシュートを決め、逆転。さらにその後、藤本がフリースローも1本決めて64-61。最後は残り4秒、同点を狙ったオーストラリアの3Pシュートがリングに弾かれた瞬間、日本の勝利が決まった。

それは、日本にとって歴史的快挙でもあった。それまでパラリンピック、世界選手権、AOCをあわせた公式戦で、日本がオーストラリアから勝利を挙げたのは、過去に一度きりしかない。それも1980年アーネムパラリンピック(オランダ)にまでさかのぼる。

39年もの間、公式戦では土をつけられ続けてきたオーストラリアから勝利を挙げたという事実。それは、チームが歩み続けてきた道のりが間違いではなかった、その「答え」でもあった。

世界随一の選手層の厚さを武器に「一心」で挑む

イラン、オーストラリアを破った日本は、予選リーグ1位通過を決めた。しかし、決勝トーナメントでは準決勝、3位決定戦で敗れ、4位という結果に終わった。東京パラリンピックで史上初のメダルを獲得するためには、まだやるべき課題は少なくない。大会を通して勝ち続けるためのスタミナ、精神力、精度の高い技術を身につけなければ、世界の頂へ到達することはできない。

しかし、その一方で世界における日本という存在が、この数年で大きく変わったことも事実だ。18年世界選手権で当時のヨーロッパ王者のトルコを破り、リオパラリンピック銀メダルのスペインにもわずか2点差の惜敗。そして今回のAOCでは世界選手権3位のオーストラリア、同4位のイランから白星を挙げた。今や日本は、決して簡単に勝てる相手ではなくなっている。それどころか、世界は脅威にさえ感じているに違いない。そして、日本自身が感じている手応えと自信の大きさも、前回のパラリンピックの時とはまるで違うはずだ。

その最大の要因は、“全員バスケ”を掲げた14年から5年の歳月を経て築き上げてきた選手層の厚さにある。今やメンバー12人全員が“主力”となっている日本が持つラインナップの種類の豊富さは、世界随一と言っても過言ではない。そして全員が主力だからこそ、お互いを信頼し合った深い絆がある。チームスローガンでもある「一心」が、日本ならではの強さでもあるのだ。

車いすバスケ男子の世界は、群雄割拠の時代にあると言っていい。そんななか、厳しい予選を勝ち抜いてきた強豪が集結するパラリンピックでは熾烈な戦いが繰り広げられることが予想される。その世界最高峰の大会で、日本はふるい落とされるのか、それとも世界トップクラスの仲間入りを果たすのか。

12人全員の気持ちがブレることなく「一心」を貫き通すことができるかどうかが、まずは最初の一歩となる。

COLUMN ライバル国のコーチに直撃インタビュー!

<オーストラリア> クレイグ・フライデイ ヘッドコーチ
「さらに新しいことを取り入れて成長させていきたい」

過去に2度パラリンピックで金メダルに輝いたオーストラリアだが、16年リオデジャネイロ大会では6位にとどまった。そこからチームを再建し、18年世界選手権では銅メダルを獲得。19年AOCでは優勝に輝いた。唯一黒星を喫した日本に対しては「アジアオセアニアの中で最もバランスが良いチーム」とリスペクトしていることを明かした。東京パラリンピックまでは「メンバーに入っていない選手を育てながら、どんどん新しいことを取れ入れていく」と、さらにチームの成長を促す考えを示した。

<イラン> ミラジミ・マジヤル ヘッドコーチ
「日本のプレーには毎回驚かされる」

18年は世界選手権で4強入りし、アジアパラ競技大会では優勝に輝いたイラン。19年AOCでは3位で東京パラリンピック出場を決めた。日本と1勝1敗としたイランのマジヤルHCは、「毎回私たちを驚かせるプレーをしてくる」と日本への印象を語った。その日本と「決勝で戦いたい」と意気込む東京パラリンピックに向けて「これからじっくりと戦略を練って、十分な準備を重ねていく」と力強く語った。

<韓国> ハン・ヒョン ヘッドコーチ
「良きライバルの日本とはお互いに高め合える」

今回のAOCで準優勝に輝き、2000年シドニー大会以来のパラリンピック出場を決めた韓国。ハンHCは「出場が決まったことは嬉しいが、より安定したオフェンス力が必要」と、すでに東京パラリンピックを見据えていた。AOCでは2戦2勝した日本については「良きライバルとして高め合っていけるチーム」と語り、「東京パラリンピックでは日本のホーム開催となるので、自分たちはもっと成長して臨まなければならない」と気持ちを引き締めていた。

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