連覇を目指して東京2020パラリンピック大会に臨んだニコ・カッペル選手(ドイツ)。ケガが完治しない状態で本番を迎え、本領発揮とはいきませんでしたが、男子砲丸投げ(F41:低身長クラス)で銅メダルを獲得しました。2019年に初来日して以来、親日家となり、東京大会を楽しみにしていたカッペル選手にとって、コロナ禍での大会はどう感じたのか、また、プロのアスリートのほか、市議会議員としても活躍しているカッペル選手が、今後目指していることとは何か、オンラインでインタビューしました。
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Topic 01 次の試合に向けて
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東京2020パラリンピック大会を終えて帰国してすぐに行われたドイツ国内の大会で、シーズンベストとなる13メートル83をマークして今シーズンを終えたカッペル選手。今はすでにトレーニングに励む毎日を送っているそうです。そんななか、次の試合に向けて新しい発見があったことを教えてくれました。
「以前は重いものを持ち上げるなど、パワー系のトレーニングが多かったけれど、ケガをしたこともあって、トレーニングの内容を大きく変えたんだよ。垂直跳びやスクワットなど、瞬発力を高めるトレーニングを増やし、砲丸に触れるメニューを多く取り入れるようにしているんだ。実際に砲丸を持って、入念にフォームチェックをしたりね。もちろん、こうしたトレーニングが本当に合っているかどうかは、試合になってみないとわからないんだけど、まずはチャンレジしてみようと思っているんだ」
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Topic 02 アスリート、そして市議会議員として
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2014年に地元のヴェルツハイムの市議会議員選挙で初当選したカッペル選手は、2019年には2回目の当選を果たしています。そもそもカッペル選手が、市議会議員になろうと思った理由は何だったのでしょうか。
「もともと政治に関心があって、自分に何ができるだろうかと考えていたんだ。僕が常にテーマとして考えているのは“インクルージョン”。世の中には、さまざまな人たちがいて、どんな人にも長所と短所がある。それらをお互いに生かし合いながら人生を送ることが大事だと思っているんだよ。もちろん僕も短所や弱みを他の人に補ってもらっているし、だからこそ強みを生かして、世の中の役に立ちたいと思っているんだ。弱みがある自分だからこそ経験してきたこともあると思うし、それを生かす場は政治なんじゃないかなって考えたんだ」
市議会議員になる前は、銀行に勤めていたというカッペル選手は、地元の企業とも親交が深く、その経験を生かして、さまざまなプロジェクトを立ち上げてきました。その中の一つとして、アスリートの自分だからこその功績と思えるプロジェクトがあるそうです。
「市と企業と協力し合って、地元に新しいスポーツ施設の建設プロジェクトを立ち上げたんだ。2019年から予算を組んで、今、建設の最中なんだよ。ドイツでは、どのスポーツ施設も障がいの有無に関わらず、誰もが使えるようになっているんだけれど、小さな町では施設のキャパシティが小さくていつでも誰でも、というわけにはいかないことがよくあるんだ。僕が住むヴェルツハイムも同じだったんだけれど、新しい施設が完成すれば、みんなが好きな時にスポーツを楽しめるようになるんだ。これは自分が市議会議員になって、最大の功績と言っていいんじゃないかと思っているよ」
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現在26歳のカッペル選手は、3年後の2024年パリ大会での活躍も期待されています。自己ベストは2020年に記録した14メートル30。目標としている15メートルの大台突破に、あと30センチと迫っています。「あと10年は、競技を続けたい」というカッペル選手。「自分が活躍する姿を見せることで、小さくてもこれだけスポーツができるんだよ、障がいがあっても何でもできるんだよ、ということを伝え、勇気を与えられる存在になりたい」と語ってくれました。
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カッペル選手が所属するシュツットガルトのスポーツクラブには、ブンデスリーガに所属する伊藤洋輝選手と遠藤航選手がいます。東京2020パラリンピックを終えてドイツに帰国後、2人との親交が始まり、コロナの状況がおさまっていた時期には一緒にご飯を食べに行くこともあるそうです。
もともと2019年に初来日して以来、日本が好きになったというカッペル選手ですが、伊藤選手、遠藤選手との交流で、より日本に興味を抱くようになったと言います。「ありがとう」「こんにちは」「おはよう」「おやすみ」「いただきます」と一通りの日本語のあいさつもマスター済み。今後、さらに話せる日本語が増えそうですね。またの来日を楽しみに、今後のますますの活躍を期待したいと思います。
(2021年12月、オンラインにてインタビュー)
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大会概要
『東京2020パラリンピック競技大会』
Tokyo 2020 Paralympic Games
開催期間:2021年8月24日(火)~9月5日(日)
競技数 :22競技
開催地:日本・東京
運営主体:国際パラリンピック委員会(IPC)
東京2020オリンピック・パラリンピック組織委員会
競技数:22競技
陸上競技は8月25日から競技がスタート、最終日の9月5日まで熱戦が続いた。
会場は東京・新国立競技場とマラソンが東京の街なかで実施。
GUEST PROFILE
ニコ・カッペル NIKO KAPPEL
1995年、ドイツ・シュツットガルト近郊生まれ。低身長症。パラ陸上F41クラス。ドイツで同じく低身長症選手のマティアス・メスターに憧れ、2008年に本格的に陸上競技・砲丸投げを始める。2015年、カタール・ドーハで開催された世界選手権で、12.85mを記録し銀メダルを獲得し、2016年リオパラリンピックで1cm差の勝負を制し金メダルに輝く。2017年にはロンドン世界選手権で金メダル獲得。2018、19年と記録を更新し続け、東京2020パラリンピックでは連覇を目指すが惜しくも銅メダル獲得。