オリンピック・パラリンピック競技大会の東京開催が決まり、東京2020大会を「史上最高・世界一の大会」とするため、様々な取り組みを進める東京都。都のオリンピック・パラリンピック準備局の森さんに気運醸成のための取組や今後についてお話を伺った。
2020年 その先に何を残していけるかを考えながら
2020年に向けたオリンピック・パラリンピック競技大会の開催気運を盛り上げるための仕掛けを考え、それを実行していくのが、私たちの仕事です。例えば、1ヶ月後に迫ったリオ2016大会の閉会式では、次期開催都市である東京にオリンピック・パラリンピック旗を引き継ぐイベント「フラッグハンドオーバー」が行われますが、その旗を活用して、大会の祝祭感を地域に届ける「フラッグツアー」等を企画しています。今後、必要になってくるのは、広域自治体である都だけではなく、東京都を構成する市町村等の基礎的自治体等が一緒になって、みんなで大会を盛り上げていく雰囲気を醸成していくことだと思っています。
そんな中、パラリンピックに目を向けると、気運醸成に取組む以前に、パラリンピック競技そのものが知られていないという現実がありました。いま、それに気付き始めた行政や民間企業等が、各所で独自の取組みや新しいプログラムをスタートさせています。私たちの仕事は、2020年をゴールに設定していますが、パラリンピックに関しては、この普及啓発活動が、その先にどんな価値を残していけるのかを念頭に置きながら、取組んでいく必要があると思っています。
「パラリンピック」のプログラムを基礎的自治体で
2015年7月からスタートした東京都パラリンピック体験プログラム「NO LIMITS CHALLENGE」(以下、NLC)は、私が企画から実施まで深く携わっているプログラムで、現行「パラリンピック」という名称使用許可を得ている唯一の事業です。都内の区市町村等が主催するイベントに、パラリンピック競技体験・アスリートトークショー・写真映像展示等をコンテンツの1つとして出展することで、パラリンピックの知識がない人にも、その魅力を体感してもらうことを目的としており、参加者は「見る・聞く・する」という一連の流れの中でパラリンピックの魅力に触れることができます。また、イベント主催者の意向や来場者層に合せてコンテンツをカスタマイズできることが最大の特徴です。意欲的な基礎的自治体は、障がい者スポーツの普及に当たり、すでに様々な取組を実施しているので、NLCをうまく連動させて、東京2020大会のパラリンピック競技会場に多くの人が足を運んでくれるよう、観戦促進につなげていければと考えています。
一方で、5月2日(月)には、銀座中央通りでNLCのスペシャル版「NO LIMITS SPECIAL GINZA & TOKYO」(以下、NLS)を実施しました。道路上にテニスコートを作り、車いすテニスとウィルチェアーラグビーのデモンストレーションを行ったほか、8種類のパラリンピック競技体験ブースを設置し、より多くの人が楽しめる様々なプログラムを用意しました。多数の方に参加いただき、メディアでも大々的に取り上げていただきました。NLCは、地域を通じて、ファミリー層に働きかけていく草の根的な取組ですが、NLSのようなトピックメイキング的なイベントも併せて実施していくことで、多様な年齢層への働きかけが可能になると思っています。
スポーツを触媒にして「区別のない世界」を
東京2020大会の開催が決まり、テレビや新聞などのメディアで、パラリンピックに関する報道を目にする機会は増えてきましたが、実際にパラリンピック競技の大会に足を運んでいる人は、ほとんどいません。それは、単純にパラリンピック競技が観戦して盛り上がるということが、まだまだ知られていないということに尽きます。
私自身もこの仕事をするまで、障がい者スポーツはスピード感に欠けていて、観戦には不向きではないかと感じていて、多くの人にその魅力を伝えることは難しいのではと思っていました。しかし、ある時実際に車椅子競技を体験したことでその楽しさにハマってしまいました。初めて車椅子バスケットボールのミニゲームに参加した時は、なんというか、新しいスポーツに出会ったような新鮮な感動を覚え、ゴールを決めるたびにチームのメンバーと自然にハイタッチしていました。その瞬間、どうやって人に伝えようかと悩んでいたことがすごく簡単だったことに気付いたのです。NLCのプログラムは、私をはじめとしたスタッフによる実体験を踏まえ、一方的に情報を伝えるだけではなく、参加し、体験することにこだわって作られています。私自身、この仕事を企画し、実行していく過程で、自分の中にある色々な「ものさし」が少しずつ変わってきたことを実感しています。少し大げさですが、将来的には、NLCを通して、性別、年齢、国籍、障がいの有無を問わない「区別ない世界」が実現できればと考えています。
楽しんでもらうためにわくわくしながら考える
ロンドン2012大会の際、飛行機の窓から見える公園の芝がオリンピックマークの形に刈り込んであり、ロンドンを訪れる人たちの間で話題になったことがありました。それは空港付近の公園からの発案で、関係者の許可を得て公園管理者が独自で行った取組でした。地域の事情や魅力をよく知る人が、自らアイデアを出すことでより効果的な取組に繋がった好例だと思います。
私たちの取組は、地域抜きには語れません。地域を構成する基礎的自治体から、自発的に2020年に向けて盛り上げよう、参加しようという動きやマインドが生まれることが、私たちの仕事である「気運をつくる」ということだと思っています。そして、そこには、障がい者スポーツかどうかに関わらず、スポーツだからこそ伝えられるメッセージを込めていきたいと思います。すべてのアスリートは何らかの「思い」を持って、競技に取組んでいます。その「思い」を伝えていくことで、人々が自発的に動いていく、そういうムーブメントを基礎的自治体と一緒になって作りあげていきたいです。参加する人たちに楽しんでもらうために私たちもわくわくしながら考えていきたいですね。
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森 知洋(もり ともひろ)
東京都 オリンピック・パラリンピック準備局 総合調整部 連携推進課 課長代理
東京都渋谷区生まれ。
日本大学法学部卒業。
1999年東京都入庁、衛生局、総務局を経て、現在に至る。
2016年招致活動に携わったのち、東京国体でクレー射撃競技を担当する。
その後、大会開催の決まったオリンピック・パラリンピック部署で、
東京1964大会50周年記念事業を始め、東京2020大会カウントダウンイベントなど、
オリンピック関連事業を実施するとともに、
パラリンピック体験プログラムとして「NO LIMITS CHALLENGE」を企画・展開し、好評を得る。
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所属先:東京都オリンピック・パラリンピック準備局
住所:東京都新宿区西新宿2-8-1 第一本庁舎14階
事業内容:東京2020大会に向けた気運醸成事業
URL:http://www.2020games.metro.tokyo.jp/