ATHLETES' CORE

「これが自分だ」と輝きを放つ、憧れの人に会いに行く

太田 慎也さん
ATHLETES' CORE

太田 慎也さん株式会社WOWOW 制作局制作部

最高峰のパラアスリートたちに迫るパラリンピック・ドキュメンタリーシリーズ『WHO I AM』 。WOWOW と国際パラリンピック委員会(IPC)の共同プロジェクトして立ち上がった。同シリーズの制作チーム・チーフプロデューサーである太田慎也氏にプロジェクトが始まった経緯や『WHO I AM』を通して伝えたいこと、今後について伺った。

子どもの頃から「スーパーWOWOW っ子」

子どもの頃から「スーパーWOWOW っ子」

子どもの頃から『スーパーWOWOW っ子』だったんです。映画好きの親が WOWOW に加入し、中学生だった僕はボクシングのマイク・タイソン、F1 レース、音楽ライブ等の中継が楽しみでした。その頃からとにかく、エンターテインメントが好きで、その熱のままここまで来たという感じです。
入社して、営業企画やプロモーション、マーケティングを経験後、編成局で海外のスポーツ中継編成をしばらく担当していました。世界各地で行われている最高峰のプレーを日本の視聴者へ届けていると思うと誇らしくもあり、スポーツの世界がそれまで以上に好きになりました。
その後、『ノンフィクション W』という、アスリートや映画監督、ミュージシャンなど、エンターテインメントに携わる色々な人や事象にフォーカスしたドキュメンタリーの立ち上げに編成として携わりました。
その時、メッシのように芸術的なゴールを僕たちが作ることはできないけれど、背景にある文脈や想い、そこから見えてくるストーリーを真っ白なキャンパスに描き、そのストーリーが更に試合や選手を面白くすることができると気付きました。
しかし、自由に描けるからこそ、取材対象者と関係を作り、自分たちの目指しているものや切り取り方を、丁寧に伝えることはすごく大切です。もちろん時間はかかりますが、真っ白なキャンパスをみんなで埋めていく作業がたまらなく好きで、ここ数年は、制作に携わっています。

WOWOW の精神と合致した「パラリンピック」の力

WOWOW の精神と合致した「パラリンピック」の力

東京 2020 大会を契機に何かできることはないかと議論を重ね、辿りついたのが『パラリンピック』でした。『パラリンピック』には人と人を繋げ、価値観を変える力があり、WOWOW の「エンターテインメントには国境を問わず何かを伝え、打ち破る力がある」という 精神と合致すると考えたからです。
といいつつも、最初は手探り状態で「まずは現場だ!」と、2015 年 7 月にスコットランド・グラスゴーで行われたパラ水泳の世界選手権に飛びました。会場では元気な音楽が流れ MC がお客さんをあおり、プールサイドでは各国の代表選手たちの緊張感と高揚感が漂う、そんな中、試合が行われていく、その雰囲気と選手たちのパフォーマンスに圧倒されました。
ブラジルのダニエル・ディアスという選手を見た時に「これはすごい、彼の立ち振る舞いも、義足もすべてがかっこいい」って無意識に思っていて、少なからず「パラリンピック=かわいそうな人たちが頑張っている場所」と考えていた自分の価値観がガラリと変わっていることに気付きました。
また 3ヶ月後、カタール・ドーハで行われたパラ陸上の世界選手権では、取材エリアで選手たちにインタビューをしていきました。ライバルが近くに来るとバチバチっと意識する選手、翌年のリオ大会に向けていい準備ができていると自信満々の選手、様々な選手がいました。
その帰り道、それぞれの選手たちの、目が見えないとか、足がないだとか、『障がい』と呼ばれているものは、例えば、字が汚いとか、話が長いとか、おしゃれとか、自分も含めみんなが持っている特徴・個性と同じではないか、という話になりました。
何かが、心の中でスコーンって抜けた気がして、ストレートに世界中にいる『憧れ』の人に会いに行くという企画コンセプトに繋がっていきました。

選手たちから出てきた台詞『WHO I AM(自分)』

選手たちから出てきた台詞『WHO I AM(自分)』
選手たちから出てきた台詞『WHO I AM(自分)』

最初は選手たちの超人的なパフォーマンスに目が行くことが多く、そこにフォーカスをしていくのかなと考えていました。
しかし、実際に取材を進めると、選手を通して、国の違いだけではなく、歴史や宗教的な問題、社会問題など想像もしなかったことが見えてきました。例えば、シッティングバレーボールでアテネ大会以降、連続してメダルを獲っているボスニア・ヘルツェゴビナですが、国を挙げて競技をバックアップしています。なぜならばこの競技が、ボスニア紛争で地雷や銃弾によって下半身に障がいを負った元兵士や、若者たちの社会復帰の象徴だからです。それまで、ニュースや教科書でしか目にすることが無かった出来事が一気に自分ゴトになりました。
また、選手たちと接する中で、彼ら彼女らに「自分」について尋ねると、経歴や職歴といったプロフィールだけではなく、プライドや情熱を傾けているもの、さらに人生について、自分の言葉で語ってくれます。そんな時、選手たちが何気なく発する言葉は、障がい者だから言えることというよりは、普遍的で力強く、自分にも力を与えてくれるものが多いと感じたのです。
例えば、ブラインドサッカー・ブラジル代表のリカルディーニョの「僕にとっての“困難”はただ乗り越えるためにある」とか。
その度に選手たちが輝いて見え、「自分はどうなんだろう?」と振り返り、考えることが増えたんです。
それぞれの人生という舞台で、物事を成し遂げる、全力を尽くす、情熱を傾ける、困難を克服するという点においては人類 70 億人全員同じです。人生そして競技において、輝きを放つ彼らの言葉だから響くのだと思いました。
そこから、今回のテーマは「自分」にフォーカスしようと話をしました。ちなみに『WHO I AM(自分)』というタイトルを思いついたのは隣にいる泉ですが、英語が堪能な彼女が選手に取材をする中で、実際に選手たちから出てくるのがこの台詞だったそうです。
選手たちの背景にあるストーリーや言葉を通して、他人ゴトだった出来事が自分ゴトになり、自分自身を見つめるきっかけになってくれればうれしいです。

放送局だけど、番組を放送して終わりにしたくない

放送局だけど、番組を放送して終わりにしたくない

グラスゴーやドーハからリオまで、そして今も僕たちが制作過程で体験・経験していることはある意味、財産だと思います。最近、フォーラムや企業の勉強会、学校の講義等で『WHO I AM』の映像を使って僕らの経験・体験を話させていただくことが増えてきました。泉がある中学生グループに話をした際、『WHO I AM』を見たある生徒が「ほんと部活、面倒くさいって思っていたけど、これを見て自分もバスケがんばろうって思いました」って言ったそうです。その話を聞いて一番しっくりきました、どんな小さなことでも見た人に変化が起こることが大切です。その上で、パラスポーツに興味を持ち、選手に憧れ、競技場に足を運ぶ、そうなってほしいと願っています。
僕らは放送局だけど、番組を放送して終わりにはしたくない、だから映像を基軸にして 2020 年やその先に向けて色々なことに挑戦していきたいですね。
僕らチームで夢見ていることがあって、2019 年くらいに東京にそれまで『WHO I AM』で取材した選手たちを全員呼んで、『WHO I AM エキシビジョンゲームス』って名付けて、テストマッチみたいなことできたらいいなと。取材した選手が一堂に会することで横に繋がりができて、みんなで何かをする、想像しただけで最高ですね。

PROFILE
  • Profile image.

    太田 慎也(おおた しんや)

    株式会社WOWOW 制作局 制作部
    パラリンピック・ドキュメンタリーシリーズ「WHO I AM」チーフプロデューサー

    2001年WOWOW入社。
    営業企画・マーケティング・プロモーション部門を経て、2005年に編成部スポーツ担当に。
    リーガ・エスパニョーラやEUROなどの海外サッカー、テニスグランドスラム中継、ボクシング、総合格闘技などの海外スポーツ中継・編成・権利ビジネスに携わる。
    2008年、WOWOWオリジナルドキュメンタリー「ノンフィクションW」立ち上げ時の企画統括を務め、自身もドキュメンタリー番組のプロデューサーに。2012年にTBSとの共同企画「伝説の引退スペシャル ~世界編~」をプロデュース。
    2013年、「ノンフィクションW 映画で国境を越える日」で日本放送文化大賞グランプリ、2015年、「ノンフィクションW 記録映画『東京オリンピック』誕生の軌跡」でギャラクシー賞選奨受賞。
    2015年にプロジェクトが発足して以降、IPC&WOWOWパラリンピック・ドキュメンタリーシリーズ「WHO I AM」のチーフプロデューサーを務める。

     

  • Profile image.

    泉 理絵(いずみ りえ)

    株式会社WOWOW 制作局 制作部
    パラリンピック・ドキュメンタリーシリーズ「WHO I AM」プロデューサー

    2013 年WOWOW入社。
    WOWOW ONLINEやSNS、マーケティングなど、
    デジタル部門からユーザーコミュニケーションや番組制作に携わる。
    2015年7月より、IPC&WOWOW パラリンピックドキュメンタリーシリーズ
    「WHO I AM」のプロデューサーとしてシリーズ立ち上げを担当。
    長年の海外生活の経験を活かし、実際の取材現場で選手たちにインタビューを行なうのはもちろん、
    世界中の競技団体や関係者たちとのコネクションを構築し、番組制作だけではなく、
    「WHO I AM」シリーズを広く世界に展開するために、多岐に渡る活動を行なう。

  • Profile image.

    所属先:株式会社WOWOW
    設立:1984年12月25日
    営業放送開始:1991年4月1日
    住所:〒107-6121 東京都港区赤坂5-2-20 赤坂パークビル21F
    事業内容:
    番組を制作・調達し、BS(放送衛星)により有料でテレビ放送を行うことを軸に、
    ケーブルテレビ、CS(通信衛星)放送やIPTV、
    テレビ会員限定の無料番組配信サービス「WOWOWメンバーズオンデマンド」を提供。
    その他、映画事業、映像事業、イベントビジネス事業、メディア事業、映像制作技術事業。

    URL:http://www.wowow.co.jp/

  • Profile image.

    「WHO I AM」

    世界最高峰のエンターティメントを送り届けてきたWOWOWが
    IPC(国際パラリンピック委員会)とともに新たに発信する
    スポーツドキュメンタリーシリーズ。

    ナビゲーター&ナレーター:西島秀俊 / 音楽:梁邦彦 / フォトグラファー:新田桂一

    URL:http://www.wowow.co.jp/documentary/whoiam/
    こちらより、5分版の映像が視聴できます。

    公式twitter & Instagram : @WOWOWParalympic  #WhoIAm

TOP