20年以上にわたってゴールボールに携わり、現在は協会理事として男子選手強化指導部長を務める池田さん。東京大会でのメダル獲得を目標に、常に新しい練習方法や作戦を考え、着実なロードマップを描いている。選手と一緒に夢を追いかけ、チャレンジを続けていくことが楽しくて仕方ないと語る池田さんにお話を伺った。
自分たちでつくる未来にわくわくした
憧れだった体育教師になり、最初に配属された盲学校でたまたま音の出るボールを見つけたことがきっかけです。今から40年ほど前に、オーストリアからゴールボールを伝えに来られた方が置いていかれたもので、見た瞬間「なんて画期的なボールなんだ!」と思いました。当時はゴールボールという競技を正しくは知らなかったのですが、このボールなら視力に関係なく公平にプレーができると思ったんです。独自のテキトーなルールで授業に取り入れましたが、後に知った正規のルールに意外と近かったので、その時はホッとしました。(笑)
そんな中、’92年のバルセロナ大会をきっかけに、日本でもゴールボールでパラリンピックを目指そうということになり、僕と、同じようにゴールボールもどきを実践されていた関西の方々に声がかかり、日本チームを作ることになりました。僕はずっと剣道をやっていたので、教師になったら剣道部の顧問になることが夢でしたが、部活動では良くても関東大会。ところが、ゴールボールでは日の丸を背負って世界に挑戦できる。自分の生徒が世界で戦う選手になれるかもしれないとなったとき、「これはもうやるしかないな!」と思いました。皆で国際ルールを学ぶことから始め、練習方法ひとつにも試行錯誤の日々でしたが、そんな状況にわくわくし、自分たちで未来をつくっていけることがとっても楽しかった。一気に夢が広がり、先が輝いて見えました。
’94年に協会を立ち上げ初めて国際大会に出場しましたが、’95年のパラ予選ではまぁボロボロで・・・’99年の最終予選でもまったく歯が立たず敗退。悔しさのあまり、シドニー大会へ一人、ビデオカメラを担いで行きました。この時にはもう、4年後のアテネ大会に絶対出よう、選手と一緒に世界で戦おうと心に決めていたと思います。
上達する楽しさや嬉しさを感じてほしい
試合のデータ分析やプレーを検証して、効果的な指導方法やトレーニングを日々考えています。教えてもらって上達する楽しさや勝った時の嬉しさは、自分も剣道を通してよく知っています。それを今度は、自分が選手に与えてあげたい。でも、見えない選手に見えたことを伝えるのはすごく難しくて。選手に動いた感覚が残っているうちに、選手の身体を動かしながら、修正点を具体的にリアルタイムで伝えるようにしています。視覚で「本当に惜しい!」ことや「もう少し」だということを見せられない分、こちらの言っていることを信じてもらうための信頼関係も大切です。技術も戦術も、彼らが僕たちを信じてやり続けた先に成果や結果が出て初めて、信頼される要素が一つ増える。その積み重ねなので、終わりがないんです。
それでも、本番は選手をコートにただ送り出せばいいというわけではなく、コートの中で選手が感じきれない部分や、感覚と実際起きていることのズレをベンチが的確にとらえ、戦術と共に選手に伝える。この競技において選手が全力で戦うには、外からの情報が絶対に必要なんです。自分が与えた情報が生きた瞬間、まるで自分がゴールを決めたかのようにガッツポーズをしてしまいます。それだけ、選手と一緒に戦っている。自分は選手と一緒に戦うパーツのひとつという想いでいつも試合に臨んでいます。
ここぞの一本を決められるチームに
まずはこの8月に行われるアジア・パシフィック選手権で2位以内に入り、来年の世界選手権に出場することです。そしてそこでメダルを獲って、2020年東京大会の出場権を自力で獲得したい。今、日本男子の世界ランキングは81チーム中13位。東京大会には開催国枠での出場が決定していますが、自力で出場する実力がないと、大きな目標である東京大会でのメダルに届くはずはないですから。
ボールのパワーやスピードなど、技術面で足りないことも多々あるのですが、一番は場数。今までは海外チームとは大会でしか戦う機会がなく、そこで学んだ課題や修正点を練習しても、試すのはまた次の大会。その期間に相手は更に進化していて、いつまでも追いつけない状態でした。相手の上をいくには、課題を踏まえて習得した戦術を試す場が必要で、これからは練習試合も含めて海外チームとの試合の回数を増やし、様々な試合展開を経験する中での勝ちを覚えていきたい。今までの惜しいところは、ここぞの一本を決められないこと。攻めも、守りも、いつもあと一歩のところでやられてしまう。そこを乗り越えるには、様々な試合の経験値がものをいうと思っています。
また、武者修行のようにいろいろなチャンスを使って選手を海外へ送り出したいです。世界のレベルを体感して、上達することに対してもっともっと貪欲になって帰ってきてほしい。そして自分たちもできるという自信をふくらませて、士気を高めた選手が増え、切磋琢磨しあうことで、チーム全体のレベルアップに繋がると思っています。
他にも、念願だった、海外チームを日本へ招いての合同練習も行っています。日本がホスト国になって練習や試合をすることは、かねてから僕のやりたいことの一つでした。世界大会の審判員にも来てもらって、世界基準でのジャッジをしてもらい、世界で通用するプレーを学び、練習方法や新しい作戦に生かしています。
選手や生徒の未来をつくる
これからの3年間でどれだけの成績を残せるか、自国開催のチャンスを生かしていかに注目してもらうかが頑張りどころだと思っています。東京大会でいい成績を残して、競技自体の知名度を上げることで、野球選手やサッカー選手のように、ゴールボール選手を夢見る子どもが出てきたらいいなと。憧れのスポーツになってほしい。そんな将来のために、いま応援してくれている人のために、頑張りたいです。
また、次世代の指導者育成にも尽力したいと思っています。今年から母校順天堂大学で、特別支援学校教諭免許を取得予定の学生を中心に、ゴールボールの指導ができるようにするというプログラムがあり、その指導に関わっています。それは、20年間指導者をやってきた僕の使命だと思って。その子たちが先生になった時、授業でゴールボールを扱ってくれたら、未来の選手発掘や指導者育成に繋がるという期待も込めて、その土壌を作っていきたい。生徒や選手の目標や未来をつくることが僕にとっての教育であり、指導者として目指すところです。
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池田 貴 (いけだ たかし)
一般社団法人 JGBA 日本ゴールボール協会 理事
東京生まれ。順天堂大学体育学部卒業。
1987年、都立文京盲学校に保健体育科教諭として赴任しゴールボールに出会う。
‘94年ゴールボール協会発足に尽力し、盲学校のチームを指導して’95、‘96年と日本選手権を連覇。男子日本代表チームのヘッドコーチとなる。
2013年ワールドユース大会金メダル、2014年アジアパラ銅メダルを獲得し、2015年IBSAワールドゲームズではあと一歩でパラリンピック出場権を獲得というところまで駒を進めたが、敗退。
TOKYO 2020大会自力出場権獲得とメダルの獲得を目標に、2017年度より専任スタッフ制度を活用し、男子チームコーチに専念。 -
所属先:一般社団法人 日本ゴールボール協会
設 立:平成27年4月1日
住 所:〒120-0005 東京都足立区綾瀬4-22-10-103
事業内容:国内のゴールボール競技の普及・振興と強化に取組むと共に
視覚障害者をはじめ障害のある人が生涯にわたってスポーツを楽しむ
ことができる環境整備と共生社会の実現に寄与する。
URL:http://www.jgba.jp/